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Sin.co -Re:The Ultimate Sin- main tales

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苦 手

 雪がちらついている。


 殺風景な部屋の中は、外気温とさほど変わりがないように思えた。家具らしい家具がないので見た目にも寒ざむとしている。10冊ばかり積み上げたあらゆるジャンルの専門書も読み終わった。見ると、ボトルももう残り少ない。時間はもう明け方近かった。
 

 特に眠くもないがこのまま布団に潜り込んで寝るか──
 

 迷っているとノックの音がした。
 その調子でレンズを覗くまでもなく紫は鍵を開ける。

「どうしたんですか七さん、こんな時間に」
 ドアを開けながら確認もせずにそういうと、果たして七哉がそこに立っていた。髪や背広の肩にうっすら白く雪が残っている。
「すまんな、ちょっと入れてくれ。……おい」
 七哉が後ろを振り返ると、七哉のコートを羽織らされた少年がやはり寒そうに立っている。怪訝な顔をして少年を一瞥すると紫は体をずらして道を開けた。


「睦月だ。部屋が見つかるまで二、三日おいてやってくれないか」
 

「は?」
「それにしてもクソ寒い部屋だな。今帰ったばかりか?」
「いや、うちはいつもこんなもので……それよりどういうことだよ」
 七哉はそのまま上がりこんでやかんに水を汲みコンロに火をつけた。見渡して暖房器具がないのでせめて火をつけるくらいしか部屋を暖める方法がない。
「風呂を沸かしてやってくれ。俺はまだちょっと用事が残ってるから行くぞ。下に喬を待たせてるんだ」
「ちょ、七さん」
「あとで説明する──あ、」
 ドアのところで七哉は急に小声になった。
「それから、あいつがどっかにフラフラ出ていかないように見ておいてくれ。頼んだぞ」


 言うだけ言って七哉は紫の質問にはなにひとつ答えることなくばたばたと出て行った。残されたのはぼんやりとコンロの火を見つめている見知らぬ──おそらく紫とはさほど年のかわらない──少年ひとり。
「……いつもこうだ」
 愚痴のようにこぼすと不審者を見るように少年を睨めまわし、それから七哉の指示通り風呂に火を入れる。やかんの水はまだ沸きそうにない。
 紫は面倒臭げに溜息をつくと、来客に座るように促した。


 テレビもラジオもない。座布団すらない。間が持たないがあれこれ質問するのも好きではない。
 

 睦月と呼ばれた少年は座ってもまだにこりともせずコンロの火を見つめていた。余程寒いとみえる。
「番茶かインスタントコーヒーしかないぞ。コーヒーでいいか」
 睦月は視線を火から外さずに小さく頷いた。湯が沸かないうちに紫はひとつしかないマグカップにコーヒーを用意しはじめる。七哉が連れて来たのだから怪しい人間ではないだろうが、自分の部屋に見知らぬ他人が座っているのが気持ち悪くて仕方ない。

「……そんなに警戒しなくても別に悪さはしませんよ」

 やはり視線を紫に向けることなく睦月が初めて口を開いた。むっと眉を寄せると紫は誰が、と聞かせるでもなく呟いた。もし何か『悪さ』をしようとしてもこんな貧弱そうなガキに何をさせるものか。
「沸いてますよ」
 じっと火を見ていた睦月がぽつりと言った。調子が狂うな──と思いながら用意したカップにその湯を注ぐ。暖房代わりに点けたらしいのでさらに水を足して火は小さくするだけに留める。
 無言でカップを差し出すと睦月はそれを両手で受取り、ありがとう、と笑った。笑顔を作ると今までの印象とがらりと変わって穏やかで優しげな顔に変わる。
 もともと、優しそうな顔立ちなのだろう。
 しかし、先程まで火を見つめていた顔の印象はそんな甘いものではなかった。
 これで学生服でも着せれば、人よりおとなしそうな高校生にしか見えない。しかし、紫は独特の勘でその底にある黒く冷たいものを感じ取ったのだろう。


「訊いてもいいですか」
 3口ばかりコーヒーをすすると睦月は顔を上げ、初めて紫の目を直視した。細い目の奥で何を考えているのか、まだ紫には量りかねる。
「あの人は、どういう人なんですか」
 あの人とは、七哉のことだろう。
「それを訊く前に、自己紹介くらいするものじゃないのか。俺にはそれを説明する義務はない」
 ああ、と納得したように頷くと睦月は小さく首を傾げた。
「自己紹介しようにも、昨夜までの僕は死んだそうなので。新しい戸籍もこれから彼が用意してくれるそうですから、僕は今幽霊みたいなものです。あるのは睦月という名前だけ」
「──」
 紫も子供の頃そうやって七哉のもとへやってきた。死んだことにせねばならない事でもやらかしたか、そんな状況におかれていたか。そして、七哉がそうやって拾ってきたということはそれ相応の関わりがある人間に違いない。それなのに、睦月自身は七哉のことをろくに知らないらしい。
 紫は徐々に苛々してきた。
「あなたは?あの人の何?」
「いい加減にしろ」
 からかわれているような気がしてきた。七哉が連れてきたのでなければ、とうの昔に殴り飛ばしているだろう。しかし、睦月はいい加減にはしなかった。
「あの人の言うことは何でも無条件で聞くっていう感じですもんね。強制されてるって風でもないし。そんなにあの人のことが好きですか?」
 おとなしそうな高校生にしか見えない癖に、状況に動じるどころかまるで喧嘩でも売っている態度ではないか。
「──おまえ、俺を怒らせようとしているのか」
「別に。わからないから尋ねてるだけですよ。強制されるでもないのに意に沿わない指示に従ってるんでしょ?」
 紫は苛ついた動作で風呂の湯加減を見に行った。このままでは叩きだしてしまう。
 見といてくれ、と七哉に言われた以上、睦月を置いて自分が出て行くことも出来ない。
「沸いたぞ。とっとと入って寝ろ。おまえとこれ以上会話していたらうっかり殺しかねない。服くらいは貸してやる」
 いくら紫でもさすがにうっかり殺すことはないだろうが、感情をあまり表に出さない紫にしては珍しく怒りを露に吐き捨てた。もっとも、初対面の睦月にすればそれが紫には珍しいことかどうかなどわかるわけがない。


 睦月は素直に風呂に入ったようだ。
 服を脱ぐ時に、ちらりと背中の大きな火傷の痕が見えたが見ないふりをした。
 

 睦月が風呂に入っている間、紫は布団を眺めてつぎのひと思案に入る。何か他の事を考えようと懸命になっているかのようだった。
 今更ながら、ここには自分用の一組の布団しかない。来客など想定していないから当然の事だ。なんとなく、無条件に布団を譲ってやるのは癪に障るのだが仕方がない。布団を敷くと自分はコートを羽織って畳の上にごろりと横になった。寒さには強いし真冬の屋外で夜明かししたことなど何度でもあるからこれで十分だろう。睦月が風呂から出てくる前にふりでもいいから寝てしまおうと思った。そうすればこれ以上会話せずに済む。


 暫くすると電気が消えて睦月が布団に潜り込む気配がした。少し安心して本当に寝ようと思った時、小さな声が聞こえた。
「それで、あなたの名前は何て?」
 小さく溜息をこぼす。寝たふりはあっさり見破られていたらしい。
「──紫だ。ムラサキと書いてユカリ」
 いい名前ですね、とまた小さな声が聞こえた。


 翌朝紫が目を覚ますと、掛け布団が掛かっていた。見ると睦月は敷布団に簀巻きのようにくるまって寝息を立てている。
 それを見ると何故か可笑しくなって、紫は小さく吹き出した。

 

 

「仲良くやってたか?悪いが今手が放せなくてな。戸籍が用意できるまで出かけるなとは言わんが一応どっかいかないようにだけ見張っておいてくれ」
 睦月を連れてきた時と同じように一方的に言うと七哉の電話は切れた。
 受話器を握り締めたままうんざりと溜息をつく。


 新しい戸籍が用意できたら、仮にそのままどこかへ消えてしまってもなんとかやって行ける。だからそれまでは保護しておこうといったところだろう。
 睦月が来た日の──早朝だったのだが──午後には、とりあえず布団一組だけは届けられた。この部屋に二組の布団があるとは七哉も最初から思っていなかったのだろう。手際がいい。
 そこから更に一夜が明けている。この分では当初七哉が言った二、三日では済まなそうな気がした。


「……おい、買い物に行くぞ」
 睦月は積み上げてあった専門書をぱらぱらと捲っていた。雑誌の一冊もなければテレビもない。あるのは数種類の新聞となにやら物騒な専門書ばかりだった。情報を得るために新聞はタブロイドに至るまで目を通しているが、純粋に娯楽の為のものといえば酒くらいしかない。睦月は顔も上げずに買い物?と鸚鵡返しに答えた。
「着替えが要るだろう」
 短く言うとコートを羽織る。それから、最初に睦月が羽織らされていた七哉のコートを手にとると投げつけるように渡した。


 何が悲しくてこんなやつの面倒を見なければならないのか──


 あとから思えばそれは七哉に特別扱いされている睦月に対する子供じみた嫉妬だったのだが、とにかく睦月に対して何かしてやることが癪だった。


「この本は駄目です。読むなら別のものにしたほうが」
 立ち上がり、投げつけられたコートに袖を通しながら言った睦月の言葉に紫は少し驚いたように振り返った。
「小難しく書けば偉そうに見えると思い込んでいる頭の悪い人の書いた本です。難解なのは内容じゃなくて表現だけ。机上の空論ばかりで実際には役に立ちませんよ」
「……」
 それは、要するに爆発物の作り方の本である。
「肝心の起爆装置の作り方がとんでもなくいい加減なんです。この通りに作ったら完成するまえに自爆しますよ。これを読むくらいならお勧めの本があります。買い物に行くなら本屋にも行きましょうか」
 受験生が参考書の情報交換でもしているような口調で睦月は言った。
「爆弾屋でもしてたのか」
 普段紫は誰に対しても個人的には過去の詮索などしない。敵と見なした相手は徹底的に洗うがそれでも個人的に質問することなどめったにない。しかし、詮索というより思わずぽろりとその言葉は落ちた。
 睦月は少し首を傾げて、別に、とだけ答えた。

 紫は人間をたいてい、大別して敵と味方に分類している。
 敵とは、この場合七哉にとって──という但し書きがつくのだが、これは問題外だ。更に分類するとすれば、抹殺すべきもの、警戒を要するにとどまるもの、とるに足らないものなどの段階に分かれるだろう。味方はというと、絶対的信頼に値するもの──例えば鷹などはここに属する──、ある程度信用のおけるもの、単なる契約にすぎないもの、現在敵ではないというにすぎないもの──などに分類されるだろう。


 睦月の場合、七哉が連れてきたということだけしか敵でないという論拠にならない。
 七哉が信用しているからといってそれに値する人物とは限らないのだ。
 この時点で、紫は睦月を知らず知らずのうちに「注意、警戒を要する人物」つまり「敵」のなかに分類していた。

 睦月の新しい戸籍ができて、部屋の契約を済ませた時点で紫の部屋での短い居候生活は終わった。七哉は睦月がどこかへ消えることを懸念していたようだが、七哉の借りてきた部屋におとなしく住まっているらしい。
 行きたければ大学へ行かせてもやるし卒業したら社の方で雇ってやる、という七哉の申し出を睦月は断った。

「大学でできることは自宅ででも出来ます。どうせなら本では勉強できない世界で生きてみたい」

 酷い違和感を周囲の誰もが感じたが、睦月は組の方を選んだ。

 ドアを開けると、何やら真剣な面持ちで将棋に興じている組員2人が一斉に頭を上げた。
「おう、紫。七やんから聞いてるぞ。部屋に入って待ってろとさ」
 にこりともせず頭を軽く下げると2人の前を通り過ぎ、奥の部屋へ足を進める。睦月はにっこりと微笑み、2人に向き直ってきちんと『お辞儀』をしてから紫のあとに続いた。それを見送り、二人は声を顰める。
「相変わらず無愛想なヤツだな。それに比べてあのお坊ちゃんはなんだ、あれでヤクザがつとまんのかねえ」
「だけど普通堅気の学生がこんなとこ連れてこられたらもうちょっとびびってんじゃねえのか。見た目より肝すわってんぞありゃ」
「ほら、組長がアレだからな。インテリ系のヤクザ目指してんじゃねえか?俺なんざ下手したら破門だあな。中学もまともに出てねえ」
 大笑いを背中に聞きながらドアを開ける。普段、七哉が不在の時は施錠されていることが多いが、先程の組員が七哉の指示で開けておいたのだろう。


 部屋に入ると紫は睦月を応接セットの黒い革張りのソファに座らせた。紫自身は点検するように部屋の中をうろうろしている。それを目で追っていた睦月の目がある一点で止まり紫から離れた。
 立ち上がり、そこへ近付く。今度は紫がそれを目で追っている。


 サイドボードの上写真立て。
 その前には小さな花瓶に山ほどの花が飾られていた。
 

「これは……」
 睦月は写真立てを手にとり、食い入るようにその中の写真を見つめている。
 そこには、若い女が笑っている写真が収められていた。


「……この女性は、誰ですか」


 独り言のような声。
 紫はぎゅっと眉を寄せ、意を決したように息を吸い込んだ。
「七さんの大事な女だ。……去年亡くなった。事故、で」
 事故、という言葉をひどく重たげに言うと紫は睦月の手から写真立てを取り上げもとの場所へ置いた。
「姐さんは組員にもとても慕われていた。だから、こうやって毎日必ず誰かが花を供えている」

 沈黙。
 

 部屋の外で将棋に興じる男たちの声が聞こえてくる。

「……睦月?」
「……いえ、きれいな人だなと思って……幸せそうに笑ってますね。きっと……幸せだったんでしょうね……」
 睦月は微笑んでいるようだった。

「すまん、待たせたな」
 ばたばたと騒がしく入ってきた七哉の声に、再びその場を支配していた沈黙は簡単に破られた。七哉は小さな子供を抱いている。それを半ば投げるように紫に渡すと七哉は応接セットに腰を下ろし、睦月をその前に座らせる。
 当面誰々に面倒みてもらえ、などと指示をしながら七哉はセカンドバッグから札束を出した。


「おまえは無一文だ──財産は稔といっしょに海の中へ消えたと思ってろ」


 紫は椎多に頬をひっぱられたりしながら目を細めて成行きを見ている。
「小遣いがわりだ。これを殖やしてみろ。おまえはそういうのが得意そうだ。仁義にはずれなきゃどんな手を使ってもいい。但し足がついたら組にも俺にも大迷惑だからな、サツにも他所の組にもしっぽをつかませないのが条件だ、いいな」


 それだけ言うと七哉は紫が入れた湯飲みの茶を飲みながら立ち上がった。この間からゆっくりと座っているところも見たことがない程七哉は走り回っているようだった。
「椎多を屋敷に連れて帰っておいてくれ」
「依子さんのところじゃなくていいんですか」
「ああ、ありゃもう切れた。あたしは保母さんじゃありませんだとよ」
 紫の溜息も聞かずに七哉は来た時と同じように騒がしく出ていった。
 睦月はそれをじっと目で追っている。
「女好きの上寂しがりやだからな。だけど姐さんのあとはどんな女も長続きしない」

 

 何故そんな言い訳をしているのだろう──

 思わず出た言葉に小さく苦笑しながら紫はソファの上に椎多を下ろした。
「姐さんが自分の子のように可愛がっていた子だ」
 疳の強そうな、膨れ面の子供が睦月をじっと睨んでいる。睦月は少し腰を屈めて幼児に視線を合わせるとにっこりと微笑んだ。そのまま顔だけを紫へ向きなおす。


「──やっぱり紫さんて、七哉さんのいう事なら無条件でなんでも聞いちゃうんですね」
「組長だ、当たり前だろう。組員だって社員だってそうしてる」
「そうですか?」
 くすくすと笑っている睦月の声が、やはり自分をからかっているように聞こえて紫はむっと口を噤んだ。


──やっぱり気に入らない。


 軽く頭を振ると、紫は椎多を抱き上げ睦月を残したまま事務所をあとにした。

 睦月が七哉に渡された資金を半年ほどで──しかも投資やギャンブルという、法には一切触れない方法で──数十倍に殖やしたことはその後、組では伝説的な出来事となる。

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 たいして私物が置いてあったわけではない。個人的に収集していた情報のファイルなどを何点か机に積み上げるとさほど大きくない段ボール箱につめこんだ。

「急ですね」
 ソファに悠然と腰掛けて手伝うでもなく睦月はその光景を見守っている。
 無言で紫は作業を続けた。

 初めて睦月が七哉に連れられて紫の部屋を訪れた日からもう20年近く経過している。十代の少年だった睦月も紫も、すでに三十代後半になっていた。

 七哉が息を引き取ったのが昨夜のことだ。
 それから、睦月は一言として紫の声を聞いていない。
 小さく溜息をつくと、睦月は座りなおした。

 紫を自分付きのボディガードにするから、組の仕事はお前が引き継げ──と、睦月には椎多本人から連絡が入っていた。
 確かに自分も組を任されていた紫の補佐をしてきたのだから、難しいことではない。しかし、昨日の今日では急過ぎる。
 まだ葬儀どころか通夜も済んでいないというのに。

「何か反論はなかったんですか。せめて葬儀が終るまでとか」
「………」
 紫は返事をしない。
「紫さん?」


「椎多を頼む、と七さんは言った」

 

 聞き逃しそうな声だった。
 泣けばいいのに、こんな時の泣き方もわからない。それはしかし睦月にしても同じだった。

「あとは頼む。おまえは最初から気に入らなかったが仕方ない」
 段ボール箱の蓋をしめながら、無表情にぽつりぽつりとこぼす。
「そうじゃないかと思ってましたけどやっぱり紫さん、私が嫌いだったんですねえ」


「……気に入らないし苦手だ、おまえは」


 何でもお見通しのようにすましている睦月の側にいるのはいつまでたってもひどく居心地が悪かった。しかしそれはリカに感じていた居心地の悪さに少し似ているということに、紫は結局気付かなかった。


 睦月は無言で微笑んでいる。
 

 見知らぬ者が見ていたなら、少年時代から世話になってきた組長が亡くなったというのに薄情なやつらだと映っただろう。

 紫がどのようにして七哉のもとへやってきたのか。
 七哉がどうして睦月を連れてきたのか。
 互いに語ることは決してなかったし、今もそれを知ることはない。
 サイドボードの上の少し色あせたリカの写真だけが、それを知っている。

 

「……それでもあなたは七哉さんの言う事は無条件に聞くんですね。そんなに──あの人のことが好きなんですか?」
「──そうだ」

 顔を上げ、目を細めると紫はほんの微かに口の端を上げた。


*the end*

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ティンケトル

*Note*

​「稔」のすぐ後から始まります。あのラストシーンから数時間後です。睦月になった稔くんはすっかり睦月口調に変わってますね。

書こうと思ったら多分睦月伝説のひとつである「紫とふたりで50人をやっつけた」話を入れることも出来たんだろうけどね。あ、でも50人は尾ひれだと思います。多分30人くらいです。そのエピが本編か別のスピンオフに関わってくる話なら入れても良かったんだけど単に話が長くなるだけなんでここはいきなり20年ジャンプしました。この後半は紫さんが鴉の正体を知る一件(本編「獲物」)の数日前のことです。

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