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罪 -9- しずく

 ぽたり。

 ぽたり。

 水滴の落ちる音がする。

 あれは雨の音だろうか。

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 野崎芙蓉は口の中に錠剤を何種類かざらざらと流し込み、それをコップ満杯に汲んだ水で一気に喉へ押し流した。
 いくつかの錠剤が喉に閊える感覚がしてコップに水を注ぎ足しさらにそれを流す。
 最近、服用する薬の種類が増えている気がするが、他に方法が思いつかない。
 大きく溜息をつくとようやく白衣を脱いだ。それを無造作に椅子の背もたれにかけて、ベッドの上にどすんと音がするほどの勢いで座り込む。
 誰もいない一人の部屋である。脱力したままだらだらと着衣を緩め、ベッドの周りに脱ぎ散らかすと殆ど素っ裸の状態でごろりと横になった。大量の水と錠剤が逆流してきた気がして慌てて起き上がると再び溜息をついた。
 そして普段持ち歩いている小さなポーチをごそごそと探り、煙草を取り出して火をつける。
 もともと喫煙者ではなかったし、この部屋以外では吸うこともないが、苛々を紛らわせるために一度試しに吸って以降は手放せなくなってしまった。

──わたし、麻薬なんか覚えたら絶対抜けられないわね。

 小さく呟くと自嘲するように笑いを漏らす。
 一本を殆ど根元まで吸ってしまうと火を消し、思い出したように窓を開ける。外からこの部屋が見えたならあられもない姿を晒していることになるのだが見渡す限りこの窓からは他から覗かれるような他の建物は見当たらない。庭から誰かが見ている可能性も無いわけではないが、最近ではもう誰かに見られたところで減るものでもなし…と全く気にしなくなってしまった。
 部屋の外の冷気にぶるっと身を震わせたものの、なんとなくその冷たさが心地よくて開け放したままにする。ベッドに戻ると芙蓉は再び横になった。
 薬を飲むのも気休めのようなものだ。
 酒が呑めれば呑みたいところだが、体質なのかまったくアルコールを受け付けない。酒の臭いを嗅いだだけで気分が悪くなってしまうので気を紛らわせるどころか逆効果になってしまう。つまらない身体だとつくづく思う。
 そろそろ寒くなってきたのでガウンを羽織ろうとして自分の身体を眺めた。
 激務のせいで食も細く、太るとことはないが、肌の張りや艶や乳房の形が明らかに衰えているのを自覚すると何度目かの溜息を落とす。

──こうしてわたし、どんどん年を取っていくんだわ。

 鏡を見ると、疲れもあってのことだろう──肌はカサカサに乾燥しているし目の下には隈が出来ているし小皺が見る度に増えている。白髪が増えてきていていちいち抜くのも追いつかなくなってきた。だいいち美容院にももう一年近く行っていない。小奇麗にはしなければならないと思うので化粧もヘアスタイルもきちんとして見えるようには気をつけているが、鏡は容赦なく年齢に伴う衰えを真実として芙蓉につきつけてくるのだ。
 年増女が唯一売り物に出来るであろう色気だって、自分ではよくわからないが無いに違いない。

──わたし、いったい何をしているのかしら。

 

 泣きたい気分になってそのままベッドに潜り込もうとしてまだ化粧を落としていないことを思い出し、億劫そうにバスルームへ向かった。ちゃんと手入れをしておかねば、明日はもっと酷い状態になってしまう。

 主人である青乃が恋人の椎英を失って豹変してしまってからもう数年が経った。しかし青乃の状態は落ち着くどころか益々エスカレートしている。
 数少ない信頼する人間であった筈の芙蓉に対しても、青乃の態度は変わってしまったと思う。
 おそらく、青乃は芙蓉もまた椎英を奪った「敵」の仲間のように思っているのだろう。以前のような姉に頼る妹のような甘えたところは微塵も見せなくなっていた。


 葛木家の当主からひとり娘専属の主治医に任命されて以来、芙蓉は誠心誠意仕えてきた。青乃が先生、先生と可愛らしく甘えてくることがその報酬のような気がして嬉しかった。だから、不自由な業務にも耐えてこられたのだ。時折休日を貰って外出することもあるが、常に連絡がつく体制はとっていた。主治医たるもの、主人にもしものことがあればすぐに駆けつけなければならない。そうやって長年芙蓉は自分のプライベートを全て青乃の為に費やしてきた。
 しかし、青乃に敵視されるようになって何の為にこのように尽くしているのか判らなくなることが増えた。
 当初でこそ青乃を取り巻く悲劇的な状況にわがことのように同情し、彼女を癒すためにどうすれば良いのかを考え続けていたのだが、近頃はそれにも疲れてしまった。青乃の夫やその配下に対して憤ることにすら疲れた。

──私の人生って、何だったのかしら。

 もっと早くその疑問を持てば良かった。青乃のもとを離れ、普通の医師になって、あるいは恋愛や結婚でもして──そんな人生の選択もあったのではないか。詮無いことと判っていても、考えずにはいられない。そしてその先には、やはり今の道しか選択肢が無かったのだということを思い出してしまうのだ。

──旦那様の恩を仇で返すわけにはいかないもの。

 

 果たしてここまで滅私奉公するほどの恩だったのか。それを考えてしまうと自分のアイデンティティが全て崩壊しそうで、芙蓉はようやく考えることをやめた。
 窓を閉めてベッドに潜り込む。眠剤も飲んだ筈なのに一向に眠くならなかった。

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 壁の向こうから何か割れる大きな音が聞こえた。
 安物のマンションではあるまいし、隣の音が聞こえるというのは相当大きな音を立てているということだ。
 芙蓉は日誌を書く手を止めて一瞬頭を上げたが、再び手元の書類に目を落とした。


 また、青乃様が何か投げてらっしゃるんだわ──
 

 そんな事態にも慣れてしまった。青乃の暮らす部屋の隣は、通常芙蓉や警備の者の詰所扱いになっている。同じ部屋で休憩していた警備員が一人、隣の主人の様子を見に席を立った。警備員としてはいつものことであっても黙って見過ごすわけにはいかないのだろう。ご苦労なこと──と芙蓉は思った。
「野崎先生、青乃様が」
「暫く好きなようにさせておあげなさい。気が済めば落ち着くわ。いちいち鎮静剤なんて使っていたらかえってお体に障ってよ」
 戻ってきた警備員にみなまで言わせず、振り返りもせずに芙蓉は言った。
「それが──」
 なおも食い下がろうとする警備員の態度に一瞬血の気が上がったがそれを堪えて立ち上がる。面倒だ。
 青乃の部屋の扉をノックして静かに開き、中を覗き込むとロココ調の豪奢なカウチの上に足まで載せて寝そべった状態の青乃とその前に直立不動の男の姿が見えた。部屋の中を見回すと、壁際のキャビネットの扉にひびが入っている。その足元には見る影もないティーポットの残骸と紅茶の染み。


 あら、丈夫なガラスだこと。
 ウェッジウッドの大きなティーポットは無残に粉々なのに、一見瀟洒で脆そうなキャビネットのガラスはひびが入っただけだ───淡々とそんな感想を心の中で唱えて、芙蓉は再び人影に視線を戻した。
 

 直立不動の男は、以前青乃のボディガードを勤める警備員を取りまとめていた伯方照彦である。
 嵯院邸全体の警備を実質的に率いていた不景気な顔の長身の男がいつのまにか姿を消してから、何故か伯方がその後任に就いた。

 青乃は逆上した。自分の為の執事だったのに、いつの間にか敵に寝返ってしまったようなものだから、青乃の怒りは当然だろう。
 その怒りも上乗せしているように青乃は伯方に事ある毎に当たり散らしている。それもまた、「よくある事」のひとつなのだ。
「わたくしがわたくしのしたい事をして何が悪いの。裏切り者のくせに偉そうにわたくしに指図する権利はおまえにはないわ」
「しかし青乃様、警備上の問題もございますので──無闇に素性の知れない者を屋敷内に入れることはお控え頂きたいのです」


 ああ、その件ね。
 芙蓉は青乃と伯方のやりとりを聞いて得心した。


 ベッドに引きこもったままで一歩も外へ出ず、使用人とも殆ど会話しなくなっていた状態からは脱したものの、今度は青乃は車で外へ出ては目にとまった男がいればそれに金をくれてやり、屋敷へ連れ帰ったりしている。

──私には無理だわ。

 

 いくら金と権力でどんな男でも言うことを聞かせることが出来たとしても、そしていくら容姿が自分の好みでも、見ず知らずで身元も名前もわからない、どんな性嗜好を持っていてどんな性病を持っているかもわからないような男と肌を合わせるなんて、罰ゲームでも勘弁して欲しい。
 しかし青乃はここ暫くその遊びに飽きもせず興じている。酷い時は毎日日替わりで1週間連続ということもあった。


 椎英が青乃の側にいた頃──
 青乃の様子を見ていた限り、青乃は一度も椎英に抱かれたことは無かったのではないかと思う。二人が夜通し語り合ったり寄り添ったりしていた時もそれとなく様子を伺っていたし、一度でも肌を合わせていたなら二人の態度で判る。断言してもいいが、二人は一度も男女の関係になっていない。
 青乃が夫に強いられてきたことを思えば肌を合わせることが愛情の発露だとは思えないのも自然だし、椎英はそれほど思慮の浅い男ではない。
 青乃は椎英を失うことで、愛する男に抱かれるという機会を永遠に失ったのだ。そして、どんな男に自分の身を任せるのもたいした事ではなくなってしまったのかもしれない。あるいは、そうすることで自分の中に残る夫の暴力の匂いを拭い去り、夫の存在を抹殺しようとしているかのようだ。


 そんな風に考察することは出来ても、青乃が興じる遊びは既に芙蓉の理解の範疇を超えていた。
「だいたい、警備員の都合でわたくしの行動を制限しようなんておまえ何様のつもりなの?ご主人さまの邪魔にならないようにうまく采配するのがおまえの仕事でしょう」

──伯方さんも大変ね。

 

 青乃が言うのももっともだと思う。ただ、この状況ではどうしても伯方の肩を持ちたくなってしまう。
「青乃様、伯方さんは青乃様をお護りするために心砕いてらっしゃるんですよ。少しは察してさしあげても──それに、主治医の立場から申し上げればこのようなことをお続けになると青乃様のお身体にも障ります」
 つい、助け舟を出してしまった。青乃は漸く芙蓉の存在に気づいたようで、不機嫌そうに眉を吊り上げた。
「うるさいわね!おまえが口を挟むことじゃないのよ!二人揃ってあの男にまんまと丸めこまれた裏切り者の分際でわたくしのやることにあれこれ口出ししないでちょうだい!」


 おまえ、と呼ばれて胸がちくん、と痛む。もう青乃は『先生』とは呼んでくれないのだ。
 

 そんな芙蓉をよそに、青乃は一層興奮の度合いを高めてきた。
「メイドたちが噂していたわ。あの男は使用人の女を口説く時はそれはお優しいのですって?おまえもそうやって手なづけられたの?──ああ、それともおまえがあの男を誘惑したのかしら?『ご主人さま』を篭絡するのは得意なのだものね」
「何を仰ってるんです、そんな──」
「わたくしが知らないとでも思っているの?お父様の愛人だった癖に!あつかましくわたくしに指図しないで!汚らわしい!」

 ぱん、と何かが割れるような音がした。
 

 それは錯覚で、芙蓉の頭の中で何かが割れた音だったのかもしれない。
 青乃は一瞬しまった、という顔をしたように見えたが、芙蓉の網膜に映っても脳には到達しなかった。

「──わたくしは眠いのよ!ふたりとも出て行きなさい!」

 伯方が深々と礼をし、まだ呆然と立ち尽くしていた芙蓉はそれに促されて部屋を後にした。


「芙蓉先生、大丈夫ですか?」
 扉を閉めると伯方が心配そうに芙蓉の顔を覗き込む。ぼんやりと伯方の顔を見上げると芙蓉は漸くゆっくりとまばたきをして、深く息を吸い込んだ。呼吸まで止まっていたかのようだ。我に返った芙蓉の様子を見て伯方が安心したように微笑んだ。

 

──優しい笑顔。

 

「申し訳ありません、私のせいで先生まで」
 伯方は頭を下げたが、微かに首を横に振って応えるしか出来なかった。
「それでは、私はここで」
「ちょっと待って」
 そのまま立ち去ろうとする伯方を呼び止める。やっと声が出た、と芙蓉は思った。
「服が破れてますわ、袖のところ──血も出てる。手当てをしましょう」
「おや、本当だ。でも大丈夫ですよ、このくらい。自分で薬でも塗っておきます」
「いけません、ちゃんと消毒しないと」
 そう言って詰所の部屋へ通そうとして、芙蓉はふと立ち止まった。
「伯方さん、少しお話ししません?手当ては私の部屋でさせて頂いていいかしら」
 芙蓉の申し出に伯方は逡巡したようだったが、特に異論を唱えるでもなくそれに従った。

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 自室へ伯方を招き入れると、椅子を勧めて上着を脱がせた。切り裂かれたシャツを更に切り開き、その下の皮膚を確認すると確かに一筋の裂けた皮膚が顔を出す。思ったほどは深くなく伯方が言ったように自分で薬を塗れば済みそうな傷だった。しかし芙蓉はその傷を丁寧に消毒し、ガーゼを当てた。それから紅茶を入れる。


「伯方さんは、どうして嵯院側に寝返ったんです?」
 

 単刀直入にそう切り出すと伯方は少し驚いたように目を見開くと、苦笑した。
「寝返ったというわけでは……前任者が信頼してくれたので、それに応えたいというのもありますが、これは青乃様のためでもあるのです」
 前任者というのはあの仏頂面の長身の男だ。男前だとは思うがどうもいけすかない。その男が何故伯方に後を任せて忽然と姿を消したのかは判らないが、たいして興味もなかった。
「いつまでも嵯院側、青乃様側と敵対していて何か益がありますか?このように屋敷内がぎすぎすと敵対し緊張状態が続いていたら、リラックスなど出来ないでしょう。元凶は嵯院氏の横暴で、ご夫婦の仲が修復不可能だとしても、青乃様はずっとこの屋敷で生涯を送らねばならない。だとしたら少しでもこの周囲の緊張状態を和らげて居心地の良い環境をお作りできればそれに越したことはないと思うのです。だから私は、時間はかかっても使用人同士の敵対関係は解消していこうと思います。たとえ青乃様にご理解頂けなくてもね」
「……」
 
───大人なんだわ。

 

 年齢で言えば自分もとっくに「大人」である。世間的には中年と称されてもいい。伯方はもう老齢に差し掛かった男なのだから「大人」というのも妙なのだが、そう表現するのが最適な気がした。
 芙蓉は伯方の上着を手に取り、今度は裂けた袖の部分を繕い始めた。こんな裂けた上着、捨てて新しいものを着るだろうに、何もせずにただ向き合っているのは何故か恥ずかしくてそうせずにはいられない。
「──芙蓉先生は少しお疲れの様子ですね。顔色がすぐれませんよ」
 紅茶のカップを傾けながら、伯方は微笑んだ。


 この男が、椎英をあんなに簡単に殺したのだろうか。
 

 伯方の穏やかな笑顔を見ていると、実際に椎英の遺体を確認したのは自分なのに、信じられなくなってくる。そうだ、この人はかつて傭兵としてどこかで戦争に参加していたとか聞いたことがある。日本はこんなに平和なのにお金のためによその戦争に行って命の危険を晒すなんて──そんな好戦的な人間にはとても思えない。
「先生?」
「───本当なんです」

 ぽつり、と呟いた。
 この人なら、私の過去を黙って静かに聴いてくれるかもしれない。一度全て吐き出してしまわなければもう息も出来ないくらい、胸の中で何かが膨れ上がってしまっているのだ。この人なら、きっと聴いてもそっと心の内に納めてくれるだろう。伯方には何故かそう思わせるものがあると思う。

「本当なんです、青乃様が仰ったこと。私、葛木の旦那様の愛人だったんです」

 

 伺うように伯方の顔を確認すると、予想通り柔らかい表情のまま真っ直ぐ芙蓉を見つめていた。もう一度大きく息を吐く。
「伯方さんも長年葛木家で勤めてらしたんですもの、ご存じですよね?旦那様がどんなご趣味だったか──」
 話し始めてしまえばもう途中ではやめられない。全部吐き出そう。

「──両親は私が物心つく前に離婚して、女手ひとつで育てられてんですが私が小学校に上がった頃、母は家を出て行ったきり戻ってきませんでした。幸い餓死する前に発見された私は施設に入れられたんですが、それが葛木家の経営する施設だったんです」

 その施設では、時折子供たちのうち何人かが葛木の屋敷へと連れて行かれた。その事について、子供たちの間では様々な噂が飛び交っていた。


 だんなさまの養子にしてもらえる。
 いや、使用人としてこき使われる。
 いやいや、だんなさまは実は人喰いの妖怪で、その餌にされてしまう。


 やがて芙蓉もそのメンバーに選ばれた。4年生の時である。他に女子がもう1人、男子が1人。計3人だった。同じような年頃の子供たちだ。
 連れて行かれた葛木邸は、子供の想像できる限りの大邸宅を大きく上回った規模だった。お城のようで、そこが人の生活している場所だとはにわかに信じられなかった。そしてそこには、まだ子供だった芙蓉には予想できなかったことが待っていた。


「──旦那様は、成熟した大人の女性には性的魅力を感じられない人でした。初潮も迎えていないような少女や、青年になる前の少年しかあのかたの心を揺らすことはなかった……」
 それは、葛木家の使用人の間では公然の秘密である。


 当主の妻となった女ですら、遠縁で格下の、自分には逆らえない家の娘を少女のうちに手元に貰いうけた。娘がようやく16歳になって籍を入れた時にはすでに長男を出産し二人目の青乃を身篭っていたのだ。
 その妻も、青乃の出産後には完全に大人の女の身体になり、夫の興味は失われてしまった。青乃の母が自分の子供たちを疎み夫を憎んでいるのもそういった経緯があったのだろう。
 子供が子供である時期はそう長くない。こうして葛木家の当主は身寄りを失った子供たちを保護する人格者のふりをして、自分の性的欲求を満たすための人形を懸命に集めていたのである。


「最初は私も嫌でした。わけもわからずお相手をさせられて、苦痛でした。でも──」
 言葉を一旦切って、芙蓉は唇を噛み締める。
「旦那様はとても優しかった。よく抱き上げて、抱きしめて、頬ずりして髪を撫でて下さいました。まるで、父が娘にそうするように。……私、父の顔を知らないから、父親のような年の男性に憧れがあったのかもしれません。だから、それが嬉しくて、旦那様に気に入ってもらえるように努力するようになりました」
 屋敷から学校に通わせてもらい、そこではいつも成績優秀。満点のテストを持ち帰ると、おまえは利口だなと優しく褒めてもらえる。そのご褒美が欲しくて幼い芙蓉は懸命になっていた。
「──多分、あの時の私は幸せだったのだと思います。自分と旦那様だけがひとつの世界だったから。私は旦那様に愛されているのだと錯覚していたんでしょうね。私が欲しかったのは父親のような愛情だったのだけど」


 やがて、女児は少女に、そして女になっていく。
 高校に進む頃には、もう当主の興味は新しい子供に移っていた。それでも、他の子たちよりは長い期間『可愛がられ』ていたのは事実だ。他の子は早ければ中学に上がったくらいでお役御免になっていたのだから。それは、芙蓉が学業でも飛びぬけて優秀だったから、別の興味を引いていたせいなのかもしれない。
 夜の相手をすることも、以前のように抱きしめて頭を撫でてくれることも無くなったが、当主は芙蓉に目をかけることはやめなかった。
 大学の医学部に進学することも許し、医師免許を獲得した芙蓉にひとり娘専属の主治医という仕事を与えたのも──
「旦那様のおかげで私、医師になれたんです。だからご恩返しをしなければと青乃様に尽くしてきました。いいえ──」
 ひどく後ろめたいことを告白するように、芙蓉は身体を少し縮こめる。
「正直言えば、旦那様の本当の娘、あのかたの本当の『娘への愛情』を独り占めしている青乃様に嫉妬したこともあります。私は大人になってあのかたの愛情を失ったけれど、彼女は一生父の愛情を損ねることはないのだと思うと」


 それでも、青乃がなついてくれたから。
 青乃が芙蓉先生、芙蓉先生と姉のように慕ってくれたから。
 それが可愛いらしくて、嫉妬も押さえ込むことが出来たのだ。
 なのに──

 ぽろりと涙がこぼれた。

「もう私、なんのためにここにいるのか判らないんです。青乃様に憎まれてまでお仕えすることに何の意味があるのかしら。私、もう戻らないあのかたの愛情を追いかけているうちにもうこんなおばさんになってしまった。なんでこんなことしてるんだろうって……」
 うっかり伯方の上着で涙を拭いそうになって慌てて膝の上に下ろす。そこへ、大きな手がハンカチを差し出した。それを受け取ると両目に押し当てる。涙など流したのは何年ぶりだろう──


「先生、あなたは誰に拘束されることもないんですよ。この屋敷には柊野先生もいらっしゃいます。もし辛ければここを出たとしても誰も責めることは出来ないのではありませんか」
「でも私、そんな勇気もないの。何度も考えました、ここを出る、青乃様のおそばを離れるってことは。でも私はもう外の世界でどうやって生きていけばいいのかもわからない。ずっと葛木家のお屋敷とこのお屋敷と、閉じた小さな世界で生きて来たんですもの。学校こそ外へ行っていたけど、もう外の世界とどうやって折り合っていけばいいのかもわからないんです」
 口にしてしまってから、言いようのない絶望感が訪れた。

──飛び出す勇気のない私に、今が辛いなんて嘆く資格は無いじゃない。

 

 胸に閊えて膨れ上がっていたものを吐き出したら、その代わりに言いようのない絶望がその空間を埋めてゆく。

 ふわり、と髪に手が触れた感触がした。
 伯方の手が、芙蓉の頭を撫でている。
「ずっと胸に溜めていらしたんですね。可哀想に。私は先生のためになにも出来ませんが、こんな聞き役ならいつでもなりますよ」
 伯方から受け取ったハンカチがもうすっかり湿ってしまっている。芙蓉は、自分の椅子から崩れ落ちるように伯方の前に膝をついてその胸に顔を寄せた。
 とんとんと、肩が掌で優しく叩かれている。ああ、懐かしい感覚だ。かつて、少女の頃よくあの当主にもこんな風にしてもらった。
 その感覚が芙蓉の身体の奥にしまいこまれていたスイッチを入れた。
「伯方さん──」
 胸に強く顔を押し付け、伯方の背中に腕を回して力を込める。
「──伯方さん、私を抱いて」
「先生?」
 一度口にしてしまうと、もう今更はしたないだなどとは思わなかった。恥らうような年じゃあるまいし。
「抱いて、お願い」
「──」
 顔を見なくても、伯方が困っているのがわかる。


 芙蓉は急激に我に返り始めた。
 伯方から見れば自分はまだ若い筈だけれど、そりゃあもっと若い娘が好きなのだろう。普通の男性でも、年をとるにつれて段々若い娘が好きになっていく人はけっこういるらしいし。疲れた年増女がなにをとち狂っているんだ、優しくなどしなければよかった──勝手に伯方の心中を空想してはまた絶望が膨らんだ。


「勢いでそういう事を言うものじゃありませんよ」
 ああ、やっぱり。私がもっと若かったら?もっと美しかったら?もっと幸せに生きてたら?もう少し魅力的な女に見えるだろうに。
「どうして?私は女よ。私だって女なのよ。私だって──誰かに愛されてやさしく抱かれてみたいの、お人形さんみたいに飽きたら捨てられるんじゃなくて──」
「ほら、先生矛盾してますよ。だったら尚更、私などを誘うもんじゃありません。あなたは勘違いしてらっしゃる。私はろくでもない人殺しです。誰かを愛するような綺麗な心はもうとうの昔に無くしてしまったんですよ」
 芙蓉は顔を上げることができずにいる。
「今、ひと時だけあなたを抱くのは可能でしょう。遊び相手ならそれで十分です。でも、あなたが欲しいのはそうじゃなくて本当にあなたを愛してくれる男性でしょう?だったら私はおかど違いだ。申し訳ありません──さ、少し長居しすぎました。今日伺ったことは絶対に他言しませんからご心配なく。今日はまだ夕方ですが早めにおやすみになった方がいいですよ。お酒でも運ばせましょう」
 澱みなくすらすらと口上を述べると、あくまでも優しく芙蓉の腕を解いて伯方は立ち上がった。
「そうだ、たまには完全休養をとって旅行でも行かれてはいかがです。屋敷からの連絡もその間はシャットアウト。大丈夫、柊野先生は信頼のおける先生ですから、もしも何かがあってもきちんと対処して下さいます。日ごろの雑事から開放されてのんびりしたら新しい恋に出会えるかもしれませんよ。あなたは、自分が思ってるほどおばさんじゃない。十分美しいし魅力的です」
「……そうかしら。優しいんですね、伯方さん」

──優しいけど冷たいひと。

 

 なんとか笑い顔を作る。あれだけ泣いたから、化粧も剥げて醜くかったに違いない。しかし伯方は少し安心した顔で頭を下げ、部屋を出て行った。
 床にぼんやりと座ったまま伯方を見送ると、芙蓉は機械のようにぎくしゃくと立ち上がり、椅子に座りなおした。

 魅力的だと言うなら、抱いてくれればいいじゃないの。
 

 この部屋でのたかだか1時間足らずの間に、伯方に恋をしてさっさとふられてしまったようなものだ。

 短い恋だった。
 その上、自分が連絡をシャットアウトして青乃のもとを離れても、柊野がいるから大丈夫と言われてしまった。
 だったら私の存在意義はもう医師としてですらたいした価値がないのだ。
 昔からこの屋敷で嵯院家の主治医を務めてきたという老人の笑顔を思い出した。いくら頼れるベテラン医師だからといって、あれは嵯院の主治医だ。伯方は本気でこの屋敷の使用人の垣根を無くすつもりなのだろう。

 芙蓉は暫くそのままの体勢で放心してしていたがふと思い出したように立ち上がった。


 そうね、今日はもう寝よう。
 いつものように薬を飲んで。
 

 個数も確認せずにざらざらとタブレットを口の中に流し込む。
「野崎さん、薬の用法と量は正しく守って服用して下さい」
 呟くと笑えてきた。医者の癖に何をやっているんだか。こんな無茶苦茶な飲み方をしていたら近いうちに中毒を起こすわ。死んじゃうかも。
 死んだところで、誰も悲しんでなんてくれない。きっとあのかただって、気にもとめて下さらないわ。だったら別にかまわない──

 それでも、明日は来るんだし。
 お風呂に入って化粧を落として、たまには顔のマッサージでもしよう。


 バスルームに向かおうとした時、ノックの音がしてメイドが酒を運んできた。
 そういえば、伯方がそんなことを言っていたような気がする。
 私、お酒は──と辞退しようと思ったが、壜が美しいので思い直して受け取った。

 

 これは何ていうお酒だっけ。私、飲まないからお酒のことはよくわからない。
 でも、壜がすごく綺麗。琥珀色の液体がとても美味しそうに見える。
 氷とミネラルウォーターと、昔テレビか映画で見たような丸い形のグラス。もし水で割るならという配慮で氷や水も用意してくれたのだろう。でも、このグラスでお酒を飲んでいた人は確か、水で割ったり氷を入れたりしてなかった気がする。
 ああそうか、ブランデーなんだわ、これ。
 蓋を開けて、グラスに注いでみる。とくとくと効果音のような音がした。
 わ、本当にこんな音がするんだ。コマーシャルで見た時は絶対効果音で作った音だと思ってた。
 微かに微笑みを浮かべてグラスに注がれた液体を光に透かしてみる。その向こうはセピアの世界。
 ふうっとグラスから香りがする。
 それが鼻腔に届くと、芙蓉はグラスを遠ざけて空いた方の掌で自分の鼻を覆った。
 やっぱり、ダメみたい。見た目はこんなに美味しそうなのに。


 でも──
 

 意を決したように芙蓉はグラスを口に運んだ。激しい刺激が舌を焼く。思わず口に含んだ液体を全部吐き出しそうになった。それを無理矢理飲み込むと、口の中から食道から胃まで、まるで焼け付いたように火照ってくる。
 慌てて別のグラスに水を注いでそれを一気に飲み干した。それから咽たように何度か咳をする。
 こんなの、美味しいと思って飲む人の気が知れない。
 でも、これを飲んだら今日くらいは深く眠れるかも。
 だって、ほんの一口飲み込んだだけなのにもう手足がぽかぽかと熱くなってる。頬も触って判るくらい熱い。きっとよく眠れるわ。
 芙蓉は再びブランデーのグラスを手にすると、残された琥珀の液体をぐっと呷った。喉を通過する際には目を閉じてごっくん、と飲み込まねば通らない気がした。
 椅子に座っているのに、なんだかふかふかのソファかまるで空に浮かぶ雲にでも乗っているようにふわふわとし始めた。


 あら、私、お酒は体質に合わないと思っていたのだけど、そうでもないのかしら。
 だって、なんだかすごく気持ちよくなってきたもの。
 こんなことなら、匂いが好きになれないから体質に合わないなんて決め付けないで、飲んでみればよかった。
 そうか、お酒が好きな人はこんな風にふわふわ気持ちよくなるからやめられないのね。


 グラスにもう一杯注いで、それも呷る。


 なんだか、最初より慣れてきたみたい。口の中も喉も、最初の焼け付くようなぴりぴりした刺激はさほど強くなくなってきた。
 テーブルの端にひっかかっている衣服に気づくと、ふらふらとした手元でそれを引き寄せる。
 そうだ、伯方さんの上着、返すのを忘れてた。
 鼻先に押し当てると、年配の男の匂いがする。それを鼻いっぱいに吸い込むと、ぽろぽろと再び涙がこぼれおちた。

──ねえ、助けてよ。

 

 こぼれ落ちた涙がさらに悲しみを増幅させる。
 なんだか悲しくて仕方ない。涙が止まらないの。


 誰か助けて。私、ひとりぽっちだわ。

 誰でもいい、私の側にきて、手を握って、抱き寄せて、髪を撫でて。
 私、なんで大人になってしまったんだろう。
 こんな気持ちになるなら、ずっと子供でいたかった。

 子供のまま、だんなさまのお人形でいたかった。

 伯方の上着を抱きしめてしゃくりあげながらテーブルにつっぷした。
 その勢いでテーブルの上のグラスがころん、と倒れた。中に残っていたブランデーがテーブルの上に広がる。
 
 あら、こぼしちゃったわ。拭かなきゃ……。
 ああ、頭がぐらぐらする。
 いやだ、気分が悪くなってきた。
 やっぱり初めて飲むのにいきなりあんなに飲んだのが悪かったのね。無茶はするものじゃないわ。
 二日酔いもきっと初体験だわ。胃薬でも飲んでおけば少しはましになるのかしら。
 ああ、身体が重い。頭が持ち上がらないわ。
 すごく眠い。
 気分が悪いのに、眠くて気持ちいい。変な感じ。
 こんなに眠いなんて、何年ぶり?
 寝るならベッドに横になった方がいいわ。
 その前に、ちゃんとお風呂に入って化粧も落として、そうだ、今日は顔のマッサージをしようと思ってたんだ。
 でも動く気にならない。というより、動けない。

 ぽたり。
 ぽたり。
 水滴の落ちる音がする。
 あれは雨の音だろうか。
 違う、さっきブランデーをこぼしてしまったんだわ。テーブルからその雫が滴ってる音。
 
 もういいか、たまにはこのまま眠ったって───
 
 野崎芙蓉はテーブルに伏せたまま、目を閉じた。

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「おはようございます。と言っても、時刻はもう午後ですがね」
 柊野医師の好々爺然とした笑顔を見て、青乃は反対に苦虫を噛み潰したような顔をした。
 見回すと、いつも柊野医師が連れている看護師はいない。その代わりではないが、後ろの方──扉際には伯方が立っている。
「寝起きに老人の顔なんて見たくないわ。何しに来たの。わたくしはおまえに用などないわ」
「ところが私には奥様に御用があるんですな」
 ベッドで身を起こすとメイドがガウンを肩からかけている。もう少し前に目覚めてはいたが、起き上がるのが億劫でずっとまどろんでいたのだ。
「だいたい、私の主治医は芙蓉なのよ。彼女は何をしてるの」
「さて、それですよ」
 柊野医師は首をぐるりと回した。こきこきと骨の鳴る音がする。

「芙蓉ちゃ…野崎先生は、亡くなりました」

 

 一拍おいて、青乃は吹き出し、笑い始めた。
「くだらない冗談はいいから、何の用か早く言いなさい」
「冗談ではありませんよ。亡くなったのはおそらく昨夜、比較的早い時間帯でしょう。今朝、メイドが食器を下げに行ったところすでに冷たくなっておられました」
 青乃はぽかん、と口を開けて柊野の顔を見ている。
「……わけがわからないわ。芙蓉は昨日この部屋に来たのよ?出すぎた事を言うものだから叱って追い出したけど」
「野崎先生は、テーブルに伏せたままの姿勢でした。お酒を飲まれていたようで、急性アルコール中毒が引き金でしょう。しかし、普段から大量の薬を飲んでおられたようで、酒を飲む前にも通常では考えられない量の色んな薬──簡単に言うと睡眠薬やら鎮静剤やら頭痛薬やら抗うつ剤やら胃薬にあたるものですな、飲み合わせも量も本職の医師とは思えない飲み方で飲んでらっしゃったようですよ。そこへ大量の飲酒。こう言ってはなんですが、あれでは死んでも不思議じゃありませんな」
「──芙蓉先生はお酒がまったく飲めなかったのよ、なんでそんな……」
 ただ情報が信じられないという顔で青乃は呆然と呟いた。
 そして、ふと思い当たったように目を見開くと、唇を噛み締めてぷいっとそっぽを向いた。
「わたくしから死ぬ自由を奪っておきながら自分だけさっさと死ぬなんて、なんて勝手な女なの。もういいわ、あんな裏切り者がどんな死に方をしようが、わたくしには関係ない。これ以上聴きたくないから出て行きなさい」
「奥様──」


「いいから出て行きなさいと言ってるのよ!聞こえないの?!」
 

 老医師はやれやれと溜息をつくと小さく会釈して青乃のベッドから離れた。その後を伯方が続く。部屋を出る際にちらりと振り返ると、そっぽを向いた青乃の顔は怒りというよりも悲痛なもので満たされていた。

「──精神的にまいっているようだったので、酒を勧めたのは私です。部屋に運ばせたのも。まさか全く飲めないとも、それなのにあんな飲み方をするとも思わず──私が軽率でした。それにそんな風に大量の薬を常用していたとも」
 柊野医師の背後から伯方がそう報告する。柊野は振り返らず、ゆっくりと歩いている。
「芙蓉ちゃんは思い詰め易いタイプの子だったなあ。この爺がいつでも相談に乗ってやるとは言っていたんだが、奥様に義理立てしているのか、『嵯院側』のわしには最後まで心を許してくれんかった。あんたの責任じゃないよ、この屋敷にいる人間の健康についてはすべてわしが責任者だ。つまり、わしが至らんかったということだよ。薬の管理についてもな」
 淡々と語ると階段の降り口で伯方を振り返る。
「わしはもう年だから、そのうち引退したらあの子に後をお願いしようかと思っておったんだがなあ。まだ当分、隠居はさせてもらえんようだ。やれやれ」
 階段を下りてゆく柊野の少し黄ばんでくたびれた白衣の背中を見送りながら伯方は頭を下げた。

──墓堀り人、か……。

 戦場にいた頃につけられたグレイブというコードネーム。
 今でも私は、墓堀り人だ。

 葛木の当主にも、一応報告せねばなるまい。自分のせいで人生をまるごと狂わされてしまった哀れな人形の末路を、あの男はどんな顔をして聞くのだろう?

 青乃の部屋の方から、がしゃんと何かが割れる音がした。それもまた「いつものこと」だ。
 先ほどの青乃の表情を思い出す。

──似ているのかもしれない。

 

 紫を愛しているのに殺してしまった椎多。
 芙蓉を必要としていたのに退けて絶望の淵へ追いやってしまった青乃。


 あの二人は、本当は──よく似ているのかもしれない。 
 どちらも感情を、それも好意を、素直に表現することがなんと下手糞なことか。
 元から下手だったわけではない。傷ついた心が臆病さで心に纏った鎧。それがまた別の悲劇を生む。

 どこまで見届ければいいのだろう。
 それは自分が死ぬ時までか──と溜息をつく。


 それから伯方は青乃の部屋へと踵を返した。
 

Note

さらにTUSとは関係ない、青乃さんの主治医の話。TUSの本筋に入る気があるのか作者!みたいになってきました(笑)。芙蓉先生には特定のモデルはいません。柊野先生にもいません。

作者が自分に近い世代の女性を書くのはわりと珍しいんですが(なんか色々生々しかったりなんかバレたり(?)しそうだから)書いていたらけっこう興味深かったです。まあこの芙蓉先生も特異な幼少期を送ったことになっているんですが。

ちなみに青乃の父上(さすがにこれにモデルはない)が小児性愛者であるということはTUSのチャットでそういう話になったんだよね。どういう流れでそうなったのか覚えてないけど。フィクションだからまあまあ平気で書いてるけど、私本人の感覚だと未成熟の子供が性愛の対象になるなんてさすがに気持ち悪いです。

​この時点での芙蓉先生はおそらく三十代のアラフォーくらいなんだと思うのですが(芙蓉先生の年齢関係の細かい設定はしてない)仕事に夢中で恋愛も結婚もせず自分を顧みてこなかった女性が忍び寄る老化に気づいて衝撃を受けるんですよこのくらいの頃に。あと「あれ、私の人生って何だったの?」ってなる頃。伯方さんに一瞬で恋をして迫ってふられて飲んで、というくだりだけ見ればたぶんこのシリーズの中でも屈指のリアルさだと思う(笑)。

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