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Sin.co -Re:The Ultimate Sin- main tales

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心恋 -3- 悠大

 医大生の頃に買って、大事に乗っていた中古の軽自動車が壊れた。

「さすがに廃車か……今年の自動車税払ったばっかだったのにもったいないな」
「何呑気なこと言ってんの。下手したら死んでたよ」
 樋口悠大が苦笑ともなんともつかない顔で茜の頸にがっちり嵌った固定具を顎で示す。

 

 実の父と思われる人物の写真集を発見した茜は、まず出版社に発行当時のことや発行者のことを問い合わせた。当時の担当者はすでに異動し出世していたのを何とか頼み込んで話を聞かせてもらうことが出来た。

 この写真を撮った『水原茜』というカメラマンは、大学を中退してこの出版社の委託という形で戦場写真を撮りにベトナムに行っていたという。出版社には出版社のオーダー通りの戦場の──焼け出された民衆や兵士の姿などの写真を送ってきていたが、戦争末期の頃に連絡が途絶え、結局消息不明のまま30年近く経過したとその担当者は言った。
 爆撃などに巻き込まれて死亡したのか、連絡を自ら断って現地に残っているのかもわからない。

「正直言って、うちが派遣したわけだから消息がわかりませんでは済まないだろうとかなり泡をくったものでね。ただ彼は天涯孤独というか──身内がいなかったから、騒ぎ立てる人がいなくて。今だから言えるけどそのおかげで消息不明のままなあなあで済まされた。まさかそんな、子供を宿しているような恋人がいるなんてこちらも知らなかったしね。すまないことをしたと思うよ」

 

 話を聴きながら、何かもやもやとしたものが心の中に湧いてくるのを感じた。
 この"担当者"は、自分が担当していたカメラマンが生死もわからず行方不明だというのに当事者意識が無さすぎではないのか。
 水原茜の話は、すでに老齢で幹部社員になっている彼にとってまだ若かった頃の昔話に過ぎないのだろう。
「それから何年経ってからだったかな、その長部という人が写真とネガを持ち込んできたんだよ。水原君の学生時代の友達とかでね。うちに送ってきていたものとは全然違うテイストの、そうそう、鳥とか動物とか子供とかの写真をね。写真集に出来ないか、と」

 友達──

「うちも水原君に関しては少し申し訳ないことをしたということもあってね。本来ならベトナムの戦場写真を撮っていたとはいえ学生上がりの素人に毛が生えたみたいなカメラマンの作品だ。そうでなければうちで引き受けるんじゃなくて自費出版でも勧めるところだったんだが、少し罪滅ぼしみたいな気持ちもあってね。少部数ではあるが出版した。それがこの写真集だね」
 "少し"、ね…と思いながら、会議机の上に置かれた、母の部屋から発見した小さな写真集の表紙を見つめると茜は立ち上がった。

「命がけで写真を届けてくれてたのに随分な言いようですね。ありがとうございます。あとは自分で探します」

 担当者は気分を害したのかむっと眉を寄せて茜を睨みつけたが、睨みつけて罵倒のひとつでもしてやりたいのはこちらだ、と思いながらそれは飲み込んだ。


 こんな男と喧嘩したところで自分の目的は何も進展しない。
 大人なんだから。
 大人というならあんな嫌味言わなければよかったのか。まだ修業が足りないな。
 そんなことを思いながら出版社を後にした。

 『水原茜』の友人だという写真集の発行者『長部一之』を探し始めたものの、当時会社経営者だった長部は会社の倒産に伴い負債を抱えたまま消息を絶っていた。友人ならばその後の水谷の消息を知っているのではないかと思ったのに、本人までが姿を消しているとなると辿る手がかりがない。
 ひとまず水原がどういう作品を撮っていたカメラマンかということだけでもわかったので、電話帳を捲ってカメラマン事務所やフォトスタジオ、写真館などを片っ端から調べて回った。

 そんな中で最初に水原茜の名に反応したのが、樋口悠大だった。

 樋口は3つだか4つ年上のカメラマンである。まだ独立して間もなく、撮影助手などを掛け持ちしている。本職としてもスーパーマーケットの広告用の写真やタウン誌の取材に同行するなどの仕事がメインで、作家性を要求されるものは手掛けられていないが、いずれは報道写真を撮るのが目標なのだという。
 もともと大学の写真部で趣味で撮っていただけだったが、様々な写真家の作品を辿っていくうちに水原茜の戦場写真に出会った。当時の水原はおそらくその時点の樋口と同世代だったのだろう。自分と同じ年ごろの若者がわざわざ出版社に直談判して戦場に行き撮ってきた写真というものに強く惹かれた。
 自分が漠然と写真を仕事にしていきたいと思っていた頃に、報道写真という道を照らしたのは水原の作品との出会いだった──と、樋口は初対面から熱っぽく語り、それ以来何となく友人のように連絡を取り合っている。

 樋口のスタジオはまだ、戦後すぐに建ったような古いビルのごく小さい一室だ。他には営業しているのか怪しく感じられるほど人気のないオフィスや、おそらく新築だった頃からあったのだろう古い眼科医院や、ギャラリーなどが入っている。
 交通事故による怪我の通院の帰りに手土産を持ってぶっつけで訪問してみたら黙ってカメラの整備をしていたので、ちょうど仕事がなく暇だったのかもしれない。


「なにはともあれ、物損で済んで良かった。人身事故だったらと思うとぞっとするよ」
「でもこの間整備したって言ってなかったか?いくらめちゃ古の中古車だとしてもそんな急にブレーキ壊れたりするもんかね」
「まあ、古いからしょうがないよ。年式で言ったら20年くらい経ってるし」

 口でそう言いながら、聞きたくもないのに聞こえてしまった雑談を思い出す。事故車の調査をしていた整備工場の担当者が、茜がその陰にいたとは知らずにしていた雑談だ。

──ブレーキオイルの漏れ、ちょっとやばくないですか?経年劣化してるとはいえ、これ、もしかして人為的に…。
──しっ、そんな報告書上げてみろ。捜査だの裁判だの巻き込まれるだけ巻き込まれて暫くは車は処分できないしうちは踏んだり蹴ったりだ。
──どうせ近いうちに壊れる車だったんだ。人身事故じゃないし当人も軽いムチウチだけだろ?いいんだよ。経年劣化でも起こり得る障害なんだからさ。

 

 別に保険がどうの治療費がこうの言う気はないし、警察の捜査などが入ったらこちらも面倒な気がしてそのまま聞かなかったフリをしてしまった。
 単なる車の老朽化による事故だと当たり前に思っていたけれど。
 自分は誰かに命を狙われているのかもしれない。
 誰かが、茅茜のことを殺したいほど憎んでいる。

 かといってそれを吹聴して回る気はなかった。
 そんなことを愚痴や世間話と同列に最近出来たばかりの友人に漏らしたところでどうなるわけでもあるまい。

「もうそこそこ給料もらってるんだろ?茅君、あんまり金のかかる遊びしてなそうだしいつまでもボロい中古車後生大事に乗らなくても新車をバーンと買いなよ」
「そうだね。最近はあんまり乗れてなかったし必要になったらそうするよ」
「結婚でもして家族が増えたらでかい車必要になるしね」
「結婚……は当分しないと思うけど」

 ふと頭の端を陽美の顔がよぎって消えた。

 微かに動揺しているのを見透かされたくなくて椅子から立ち上がり、狭く小さいスタジオの壁に掛けられているいくつかの写真作品を眺めた。そういえばここに飾ってある写真をくまなく見るのは初めてかもしれない。
 そうしていくうち、スタジオの一番奥に、2枚の写真と雑誌の切り抜きが1セットで収められた額を見つけた。そこでぴたりと足が止まる。

「これ……」

 1枚の写真は、思い思いに染めた髪を立て、目の周りや唇を黒く塗りたくった、鋲付きの革のジャケットやベストを着た5人の若者。
 もう1枚はTシャツを着て缶ビールなどを手に手にリラックスしている5人の若者。
 雑誌の切り抜きには、"dArkblooD"という見出しがついている。

 "ダーブラ"だ。
 あの頃のダーブラ。剣山のように髪を立てた、あるいはボーリング場でアルバイトをしていた、ミヒトもいる頃の──

「あれ茅君ダーブラ知ってるの。マニアックだね」
「この写真って樋口さんが撮ったの」

 写真から目が離せない。
 樋口が自分の横に移動してきたのだけは感じた。

「これ、僕が人生で初めてお金を貰って撮った写真なんだよ」
 樋口の懐かしそうな声が聴こえる。

 まだ大学の写真部で趣味で撮ってた頃。
 たまたまタウン誌の編集部にいた先輩が、取材に同行させてくれたんだ。
 いつもならこんなライブハウス情報ページのコラムの取材なんか、記者が自分で写真を撮ってくるのにさ。僕を連れていって写真を撮らせて、それでギャラをくれた。まあ、小遣い程度だけどね。
 自分の写真がギャラになった。それ以上に、地域限定のタウン誌とはいえ掲載されてたくさんの人の目に触れたのがもう嬉しくて嬉しくてさ。
 これを境に僕はプロになりたいって思うようになったんだ。

「ダーブラはさ、ギグの時はあんなんだけどメイク落としたらほんと仲良くて。もうハタチも超えてるくせに中学の仲良しグループが集まって遊んでるみたいな感じですごく可愛かったんだよね。なのにこの写真を撮ってから半年も経たないうちにミヒトがクビになって、結局別のドラム入れて、空気が馴染まないままデビューして、あっという間に消えていってしまった。ミヒトが居た頃のダーブラのままだったら天下取れてたかもしんないのにさ」

 そうか。
 樋口は多分茜よりも、もしかしたら陽美よりも、ダーブラのことを良く知っているのかもしれない。


 何を返事することも出来ず、ただ写真を見つめていると樋口は突然思い当たったように、ん!と叫んで茜の顔を覗き込んだ。

「茅くん、茅──茜って言ったよね。名前、茜だよね」
「そう……だけど」


「あの時、ミヒトが引っ張っていった『茜くん』って、君か!」

 ギクっと背筋が緊張した。
 樋口はあの時あの現場に居合わせたというのか。
 そんな偶然、あるものなのか?

「クリスマスギグだから写真撮りにきてよってミヒトに頼まれてたんだよ、あの日。でもあんなことになってさ。ギグは無くなるしミヒトはつまみ出されるし何がどうなったかこっちも全然わかんなくて──」

 リクに事情聴きに戻るよりミヒトと君を追っかけていって話を聴いた方が正解だったかもしれないってあのあとずっと後悔してたんだよね。
 リクもカフもショージもタシンも、何があったのか絶対教えてくれなかった。
 ミヒトも翌日には住んでた部屋からもバイト先からもいなくなってた。

「君はミヒトともともと知り合いだったんだよね?名前知ってたんだし。あのあとどこ行ったの。ミヒトはあのこと何て言ってたの」


 矢継ぎ早に質問が飛んでくる。答えようにも答えられることは何一つない。誤魔化すように苦笑するしかなかった。
「取材?やだなあ。そんなの俺の一存で話せないよ」
「けち」
 樋口は少し口を尖らせて舌打ちをすると笑った。下手な鉄砲じゃないが数撃ってひとつでも当たって──答えが返ってくればラッキーくらいのつもりだ。
 
「僕は結局デビュー後のダーブラの写真もたまに撮らせてもらってたんだけど、ちょうどダーブラ解散の頃に──ミヒトから電話があってさ」
「え?」
「ダーブラの写真に僕の名前がクレジットされてるのを見て懐かしくなったんだって、わざわざ電話番号調べて掛けてきてくれた」


「ミヒトさん、どうしてたの?!」

 茜が突然身体ごと振り返ったせいか驚いたように苦笑すると樋口は額の写真のノーメイクのミヒトの顔を指で辿った。
「あの後すぐは適当に電車に乗って行けるところまで行って、結局どこかの小さな漁師町の魚市場でバイトしたりしてたんだって。アメリカにでも行ってまた音楽やろうかなって言ってた。その後また連絡つかなくなっちゃったけどね」


 ダーブラが解散した頃と言えば、茜が渡米していた──陽美が自殺した頃だ。
 意外と、ミヒトは茜の近くにいたのかもしれない。

 何故か、安心したように身体の力が抜けた。
 まるでミヒトはあの後霧のように消えて無くなってしまったのではないかとまで感じていたことに気付く。あの後もしっかりと生きて、生活していたことがわかっただけで──ミヒトが実在していたことが証明されたようで、驚くほど安堵している自分がいる。


 樋口は茜を再びテーブルに誘導し、本棚からスクラップブックを引っ張り出して拡げた。音楽雑誌やタウン誌の、"ダーブラ"の記事をスクラップしたものだ。どうやらそれは樋口が写真を撮った記事のみではあるらしいがそれでも結構な件数にのぼる。しかし茜の知っている頃の"ダーブラ"は最初の3ページほどで終わっていた。

「その後ダーブラの連中どうなったか知ってる?」
「いや、俺はダーブラのファンだったわけじゃないから。ライブ……ギグ?にも行ったことないしミヒトさんが演奏してるとこを見たことないんだよね。ミヒトさんがバイトしてたボーリング場の常連で顔馴染だっただけ」
 あ、そうなんだ、と呟くと樋口は一旦立ち上がり、コーヒーを淹れて戻ってきた。

「ミヒトの替わりに入ったドラムの"ユーリ"は解散したらとっとと別のバンドに加入した。
 ギターの"カフ"はスタジオミュージシャンやってるけど最近は大物のバックについたりしてるみたいだ。
 キーボードの"ショージ"は音楽活動自体はやめて嫁さんと音楽教室みたいなのやってる。
 ベースの"タシン"は何度か大麻か何かで捕まってたけど今は地道にソロ活動してる。
 リクは、アイドルの女の子と結婚したけどすぐ離婚して、次はモデルと結婚してまた別れて、今は1人で小さなライブハウスで弾き語りしたりして歌ってるみたい」

 "ダーブラ"のメンバーはミヒトとリクしか知らない。いや、リクも名前しか知らない。他のメンバーの名前など正直言うと初めて聴いたほどだ。
 それでも何故かとてつもなく懐かしい気分になった。

 そうか、ミヒトが好きだったリクという人はあの後も何人も可愛い女性とくっついては離れてを繰り返していたんだな。
 確かに気持ちを隠して黙ったままリクの側にいたら、どこかで嫉妬が破裂したかもというミヒトの言葉は現実になっていたかもしれない。

「茅君てさあ」

 スクラップブックのページを捲っては最初に戻っていた手がぴたり止まる。目線を上げると、樋口はテーブルの上で指を組んで妙ににこにこと笑っている。

「ミヒトのこと好きだったの」
「……ただの顔見知りだって言ったでしょ。バンドのことも誰も知らないし」
「そういうんじゃなくてさ」
 樋口は──
 組んだ指を解いて手を伸ばし、スクラップブックを捲る茜の手を握った。

「ミヒトと寝たりした?」

 ぎくりと手を引っ込めようとすると、それを逃がしはせずにっこりと笑う。
「気にしないでいいよ。僕もそっちだし」
 "何を"気にしていると思われたのだろうか、と何故か思った。
「ミヒトがクビになった理由、そのへんしか無いだろうなって思ってたけど、電話で話した時に何があったのかは一応教えてもらった。まああの時の『茜くん』の正体については教えてくれなかったけどね」
「正体も何も……ミヒトさんだってボーリング場の常連の受験生ってことくらいしか俺のこと知らなかったと思うし……」
「ああ、ほんとにそうだったんだ?ミヒトも確かにそう言ってたよ。でも」

 樋口は茜の手を離さない。指の一本一本を確かめるように撫でている。

「君はミヒトのことすっごく意識してるよね?単なる知り合いのお兄さんの消息を知った子の反応じゃないよね?」
「………」

 自分が今どんな表情をしているのかがわからない。
 その顔を見て樋口は吹き出した。


「ごめんごめん。別に困らせるつもりじゃなかった。君がもしそっちの人だったら一度どうかなと思っただけ」
「どうかなって」
「ほら、僕たちみたいなのってさ、ナンパするにも難易度高いじゃん。ハッテン場だのそういう店に好みの子がいるとも限らないし。やりたいだけの時に気軽に相手になってくれる子が身近にいてくれたら嬉しいなってそれだけ。でも君、あんまり自覚もなさそうだね」

 自覚とは何だ。
 自分の性志向は基本的には女性だと思っていた。陽美をいつまでも抱くことが出来なかっただけで、女性に対して対象外だと感じたり嫌悪感を持ったことは無いはずだ。男は──あの日のミヒト一度きりだった。
 いや、しかしその後、頭の中で何度も何度もミヒトを抱いていたのではなかったか。夢の中とはいえ、あの古い写真の『冶多郎君』を抱いていたこともあったではないか。

 手を離すと樋口は頬杖をついて興味深げに茜の顔を見つめている。
「安心して、今は君の頸に邪魔なものが嵌ってるし怪我人に無茶なことしたくはないから襲ったりしないよ。今言ったことは一旦忘れてこれまで通り遊んでくれるとありがたい」
 少しほっとしたのと同時に、頭の隅で頸がなんだ、せっかくだから相手してもらえと誰かが囁いている。


 当の樋口は全くあっけらかんとした調子で立ち上がった。

「まあ、自覚しちゃった時に相手の探し方がわからなくて困ったら声かけてよ。恋愛感情抜きで相手してあげるからさ。それかお仲間が集まりそうなとこ教えてあげる」

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 研修医時代は卒業した大学の附属病院に勤めていたが、祖父のたっての願いで──というより強硬な要望で、茜は父が院長を務める茅総合病院に勤めていた。
 祖父はゆくゆく茜を院長に据えたいと思っているらしい。
 茜自身は院長などという人の上に立つポストよりせっかく医師になったのだから現場の医師でいたいと思うのだが、祖父にしてみれば現在の院長が退いた後に自分の血の繋がらない戸籍上の孫──秀行や優──がそれを継ぎ、自分が育てて大きくした病院を他人の手に渡すのが我慢ならないのだろう。
 その祖父の気持ちも理解できなくはないが、今の時代にそこまで血縁で繋いで行くことに意味があるのだろうかと疑問に思う。

 茜が乗っていた中古車の事故を皮切りに、茜の身の回りには不穏な事故のようなものが度々起こるようになっていた。

 道を歩いていて頭上から植木鉢が落ちてきたり、信号待ちや駅のホームで不自然にぶつかられて走ってくる車や電車の前にダイブしそうになったり。

 誰かが、"茅茜"を殺したいほど憎んでいる──

 いや、憎んでいるというよりも、
 茜が邪魔だと考える、茜を消し去ることでメリットを得る人間がいるということだ。
 ならば答えは明白だった。

 血が繋がっていないからといって家族扱いされないくらいもう何とも思わないが、命まで狙われてはたまらない。
 茜が医療行為をしている時に何かが起こらないのがせめてもの救いだと思う。最低限、患者の命を巻き込まないようにはしているのだろう。彼らもそこまで医師としての心を失ってはいないのだと思えば少しは救われる。いや、それは彼らを買いかぶり過ぎで、実際は病院内で何事かが起これば病院の評判に傷がつくという打算なのかもしれない。

 自分がここにいなければ、継ぐ気などないと態度で示してしまえば──
 彼らに殺人未遂だの殺人だのの罪を犯させる要因は無くなる。
 どうせ最初からこの病院には──この"家族"には、自分の居場所など無いのだから。
 祖父を説得して諦めてもらおう。そしてここを辞めてどこか別の土地の病院にでも行けばいいのだ。

 


 祖父は結局納得はしてくれなかったが、茜は茅総合病院を退職した。
 留学の時に世話になった来栖のいる研究所に入れないか打診はしてみたが、さすがにそこまで通用する縁故ではなかった。そこで来栖を紹介してくれた大学の恩師──客員教授の柊野に相談すると、遠方ならといくつか離島の診療所や外国の研究所などを候補に挙げてくれた

 

 その中でふと目についたのが世界中の紛争地域、災害現場や途上国などの医療の届かない地域に医師などを派遣する団体である。

 まさかいまだに水原茜が戦地で写真を撮っているかもしれないなどと思ったわけではない。
 ただ水原のことが頭の隅にあったから、その団体での活動に惹かれたのかもしれない。

 研修などを経て実際に派遣されてみると、状況さえ許せば絶対救える筈の命が簡単に失われ、救える筈だった命を自分の判断で切り捨てなければならない状況を目の当たりにし──医学は本来無力なものだったのだと思い知らされた。
 これまでの人生では全く縁が無かった危険とも常に隣り合わせだ。
 父や兄たちに命を狙われていたことがどれほど手ぬるいことだったか。
 いる場所がほんの5mずれていたら、あと1分ぐずぐずしていたら、一瞬で消えてしまったかもしれない命を抱えて走り回る。

 派遣期間の他は日本で勤務医をしている医師などとも知り合ったが、疲れ切って帰った後に豊かな病院でのうのうと診療をするような切替えは茜には出来そうになかった。何度か行ったり来たりしていたらそれも出来るようになるかもしれないけれど、今は無理だ──

『お疲れ様でした。ご無事に帰国されてなによりです。報告書や諸手続きは日を改めてで結構ですよ、今日はゆっくりお休み下さい』


 空港に着いて、派遣団体の事務局に報告の電話を入れる。事務的ながら優し気な声が染みわたる。
 受話器を置いてさて街に戻るかと思った時ふと身体が止まった。

 街に戻ったところで。
 俺には帰る場所なんか無いじゃないか。


 長期に渡って赴任されることもあって住んでいたマンションの部屋は一旦解約していたが、そんな事はたいした問題ではなかった。
 子供の頃から自分の居場所が無いと思って生きてきたのに、今こうして疲れ切った時に安心して行ける場所すら俺にはない。
 友人は少ない方ではない。多分片っ端から電話を掛ければ集まってくれたりうまくいけばしばらく泊めてくれる奴も一人や二人は見つかるだろう。それでも今の精神状態でそういう"友人たち"に声を掛ける気にはならなかった。

 ふと思い当たって再び公衆電話にテレフォンカードを突っ込んだ。

『あれ、茅君今日帰国だっけ。お疲れ』
 電話の向こうの声がとてつもなく懐かしく思えて胸が苦しくなる。それを悟られないよう出来るだけあっけらかんと、空元気で声を出した。
「あのさ、今日そっち行っていいかな。部屋解約しちゃってるから行くとこ無くて」 
『ああ……わかった。なんか酒と食うもんとか用意しとくよ。スタジオじゃなくて部屋の方に直接おいで』
「ありがと。助かる」
 受話器を置いて、テレフォンカードが排出される電子音を聴きながら茜は深く息を吐いた。
 良かった。
 まだ俺にも行っていい場所が残ってた。


 頸にむちうちの固定具を嵌めて"ダーブラ"の──ミヒトの話をしたあの日の後。
 樋口の誘いに乗った形で、時折互いに気が向いた時にはベッドを共にするようになっていた。

──お互い、好きな人とか恋人とか出来たらこういうのはストップな?

 樋口が最初に提示した条件。
 それに従い、実際に"ただの友人"に戻る時期が何度かはあった。樋口に"彼氏"が出来たからだ。もっともその期間はたいていそう長くなく、早い時で3週間、長くても半年くらいで別れてはまた茜とのセックスフレンド関係を復活させている。今は──少なくとも茜が今回の派遣に出発する時は、樋口には"彼氏"はいなかった。

 途中で何本か酒を買い込んで、樋口の住むマンションのインターホンを押す。
 こんなに呑気にドアの前に立っていても、どこにも爆弾は飛んでこないし顔の半分が吹っ飛んだりちぎれた腕や足を抱えて飛び込んでくる患者もいない。ただ、今ここに居ないというだけで、あの場所には今日もそういう患者が何人も駆け込んできたり、病院のキャパシティや医師の数のせいで手当てすらしてやれない人たちが今この時にもいるに違いない。


 ドアが開くと数か月前に見たのとどこも変わらない見慣れた顔が出迎えた。

「よ、おかえり」

 おかえりって言われることがこんなに嬉しいのはもしかしたら生きて来て初めてかもしれない。
「茅君なんだかワイルドじゃん。意外とこういうのも似合うね」
 ぼさぼさの髪と無精髭で覆われた頬を順に指でなぞると樋口は奥への道を開け、背後でドアに鍵を下ろしている。それを振り返ると衝動的にその背中を抱きすくめた。樋口が驚いたように笑う。
「え、何。今日はそういう感じなの。見た目だけじゃなくワイルドになっちゃって」
 笑いながら顔だけ振り返り茜の唇を軽く噛むと腕を振りほどいて押しのける。
「飲むの?やるの?やるならシャワー浴びてきてよ、先に」
「ごめん」


 叱られた子供のようにおとなしく指示に従う。
 シャワーを浴びながら、急にがつがつ求めてしまったことを少し反省した。生死の境に身を置いていたことで自分の中に何か変化があったのかもしれない。こういう関係になってからもただただドライに接してきていた樋口が戸惑ったとしても仕方ない。
 シャワールームから出てくると短パンとTシャツが用意されていた。
「ちょっと落ち着いた?あらためて聞くけど飲む?先にとにかくやる?」
「飲みます……」
 用意された酒と、デリバリーの簡単な食事やスナック菓子などをつまみながら茜は黙ってしまっていた。ぽつぽつと樋口の質問に答えるだけで自分からは何も話せない。自分が見てきたものを言語化することがなかなか出来なかった。

「どう、水原茜が見ていたものと似たものを見て来て」
 樋口は茜が本当は吐き出したいのにどう言えばいいのか判らなくなっていることを見透かしているのかもしれない。
「──水原茜はやっぱりベトナムで死んだのかもって思った」
「そう」
「紙一重で簡単に死ぬんだ。全然不思議じゃない」
「だろうね」
 酒を注ぎ足しながらぽつぽつと声が行き来する。


「本職の外科の専門医の人がさ、満足な設備も無いところで一日に何十人と切って縫ってしたりする。それでも全然追いつかなかったりする。病院に人が溢れて、手が回らなくて、怪我した子供を抱いた母親が泣き叫んでいても対応してあげられなくてその子供がそのまま死んでしまったりする。ちぎれた腕を持って繋げてくれって言われてもそれも出来なかったり。こっちは助ける技術はあっても助けられないなんて、何のために行ってるんだろう。ここまで無力だなんて思わなかった」


 ようやく言葉になり始めると止まらなくなった。
 泣きたい気分なのに涙も出てこない。
「何言ってんの」
 樋口の掌が茜の肩を宥めるように撫でている。

「君たちが行かなきゃ、そこにいる人たち全員死んでたんでしょ。理想通り全員助けることは出来なくたって、君らのおかげで助かった命は確実にある。無意味でも無力でもないと思うな」

 そう言って茜の顔を覗き込むと樋口はゆっくりと唇を重ねる。一旦OFFにしていたスイッチが入ったようにそれを貪り身体ごと床になだれ込んだ。
 無意識のように名を呼ぶと樋口は茜の頬をぱちんと叩いて笑った。


「今日そういう感じで来るんなら、下の名前で呼んでよ──ね、茜」
「──悠大」
「いいね、なんか恋人みたいじゃん」

 樋口の笑い声に甘い吐息が混じっていく。


 ずるいよ。
 恋愛感情抜きっていつも言ってるくせに、そんな風に優しくされたら勘違いしてしまうじゃないか。

 達した後、疲れに勝てずそのまま微睡んでいるとテーブルの食い散らかしたものを片付けている気配がする。
 薄目を開けてそちらを見ると、樋口は一通り片付けたあと再び元の位置に座ってグラスを傾けていた。のろのろと起き上がりやはり元のようにその隣に座る。
「寝てていいのに」
「──」
「あのさ、茅君」
 呼び方が元に戻っている。


「今日は特別だけど、また暫くこういうのやめるね」

 頭を傾けて茜の方を見て微笑んでいる。
「新しい彼氏できたからさ。今日は彼が遠方に出張に行ってるから入れてあげたけど、また当分ただの友達に戻ってよ」
「……そうなんだ。良かったね」
 ぼさぼさの髪をかきまわす腕ごしに樋口の顔を見る。なんの屈託もない顔だ。


 これまでも何度もあったこんなやりとり。
 どうせまたせいぜい半年くらいしたら彼と別れた、とあっけらかんと誘ってくるのだろう。


 なのに急に突き放されたような気がした。

 やっぱりここも、俺の居場所じゃなかった。

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 朝になって樋口の部屋を後にすると、その足で派遣前に依頼していた興信所に足を運ぶ。自分で探すことをなかば諦めていた『長部一之』を、これでわからなかったら本当に諦めようと依頼していたのだ。

「長部一之さん。現在はこの公園内に居ついているホームレスの中にいることがわかりました」

 探偵はあんなに探すことが困難だと思っていた失踪者の居場所をあっさりと割り出していた。
 さすがプロというべきか。

 そうして見つけ出した長部はしかし、自分も水原茜の消息は知らないと言った。それでも──
 ベトナムからわざわざ写真とネガを送ってきていたような友人ならば、万が一生きていたらこの先にも連絡してくることがあるかもしれない。頭の中では八割がた水原はもうこの世にはいないのだろうと思いながら、残りの可能性を手放すことは出来なかった。

 


 年の半分ほどは紛争地や途上国に赴き、残りは結局いちいちアパートやマンションを契約することもなく長部のテントに寝泊まりさせてもらったりビジネスホテルを渡り歩いたりするという生活に変わった。
 そして何度目かの赴任の終わり頃──

 事務局との定期連絡の時に、柊野教授から連絡が欲しいという伝言を受け取った。
 いつもならそんな連絡は帰国してから折り返すところなのに、何故かふと気になってその場で連絡を返す。

 もしその場で返事を返さずにいたら、茜は探しているものを見つけることが出来ないまま、一人で死んで行くことになったかもしれない。

 

 
 柊野の用件とは、自分が長年勤めていたとある富豪の屋敷に常駐する仕事を引き継いでくれないかという打診だった。茜が在学していた頃にもすでにたいてい週半分程度は屋敷に常駐し、残りは大学で講座を担当するという調子だったことを思い出す。


 その"屋敷"が、旧天月子爵の邸宅を新興の実業家が戦後買い取ったものだと聞いて、茜は一も二も無くその話を引き受けることにした。


 "あの写真"に映る"幾夜君"は天月子爵の子息だろうと祖父から聞いていた。
 つまり天月子爵邸とはおそらく"あの写真"が撮られた場所だ。

 柊野との通話が終わるとすぐにPCを借りて経歴書と身分証の写真を柊野宛にメールし、それから例の、長部をたちまち発見した探偵にも連絡を取った。この屋敷の主がどのタイミングでこの屋敷を手に入れたのか、天月家と何か関係があったのかを知りたかったのだ。自分が帰国する頃には報告を受け取りたい。何より何かせずにはいられないほど高揚していた。

 空港に降り立って団体の事務局に連絡を済ませいつもとは違い大急ぎで空港を後にし、まずは調査を依頼した興信所に向かう。
 長部をたちまち発見した探偵だったが、過去に遡る調査は本分ではないのだろう。さほど詳細な調査結果は得られなかった。柊野が仕えている"嵯院"は戦後創業で高度経済成長期に一気に巨大化した大企業の創業家で、茜と同世代の当代は二代目だ。屋敷を購入したのは創業者、つまり当代の父親だが、元華族天月家との親交があったという記録はない。そもそもこの屋敷は戦後進駐軍に一旦接収されていたものを、占領が終わった頃に先代が手に入れたのだという。天月家と直接交渉して買ったものではなかったようだ。


 当代は嵯院椎多。茜より3歳上──つまり、兄の優と同い年。
 先代は嵯院七哉。これは椎多がまだ大学生の頃に他界している。
 その父親、つまり当代の祖父にあたる人物の名のところで目が止まった。

 嵯院冶多郎。

──冶多郎君?!

 『やたろう』という名はさほど珍しくないだろう。しかしこの漢字の組み合わせの人物がそれほど多くいるだろうか?もしこの嵯院冶多郎があの写真の"冶多郎君"なのだとしたら、この仕事の雇い主はつまり"冶多郎君"の孫だということだ。
 頭の端で、だからどうだというんだ、ずっと見てきた写真の人物の孫なんて、完全に無関係じゃないかと冷静に言っている自分もいる。しかしこの偶然に偶然を重ねたような縁に茜は高揚せずにはいられなかった。


 柊野が自分の後釜として声を掛けているのが自分だけとは限らない。数人の候補の中からの選抜かもしれないしむしろその方が自然だ。選ぶのは柊野か、それとも当代本人か。

 

 その足で柊野を訪ねると、とりあえず現在の候補は茜一人だという。
「ただあの屋敷に常駐で勤めるというのは、かなりの覚悟が必要でな。だからもちろん今ここで君にすべてを説明するわけにはいかんのだが、とにかく屋敷内で見たこと聞いたこと、医師として得たあらゆる情報、とにかく何があっても絶対に外に漏らしてはいけない。たとえ退職することがあっても、その後も永久に、死ぬまで、だ」
「普通に勤めていても秘密保持の誓約書なんかがあるでしょう?医師としての守秘義務もあるし」
「そんな生ぬるいものじゃない。社会的なペナルティくらいじゃ済まされないということだ。察しろ」
「まさか──」


 バイオレンス小説や漫画や映画じゃあるまいし、口封じで消されるなど──と笑いそうになったが柊野の真剣な顔でぐっと言葉を飲む。
 学生時代から色々世話になってきたこの教授がここまでの表情をしたところを見たことがなかった。

「採用が決まったら暫くはわしが並行して引継ぎをするから、詳細はそれから説明しよう。まあ何も違法薬物を使えだの作れだの人体実験しろだの黒魔術で呪い殺すだのキメラを作れだの言われるわけじゃない。仕事内容自体は当代の主治医とあの屋敷の従業員全員の健康管理、ある程度の救急対応くらいだ。そのへんの個人病院程度の設備はある。看護師もいる。設備の十分でない紛争地や途上国での医療をやってた君には楽勝のはずだよ」


 柊野は最後には茜がよく知っている好々爺然とした顔で笑っていた。

「まあ、問題は当代が多少我儘で好き嫌いの激しい扱いづらい人ではあるがな。扱い方がわかれば可愛いもんだ」

 この老人から見れば三十代の自分たちなどヒヨッコの子供みたいなものなのだろうが、我儘だの扱いづらいだの可愛いだの言われる社長って──と少し可笑しくなった。
 当代──嵯院椎多の予定が押さえられ次第連絡すると言われて今回の赴任前に一旦携帯電話を解約していたことを思い出し、そこから慌てて新たに契約に走る。真新しい携帯電話にはまだ誰の電話番号も登録されていない。

 飛行機が着いてから一日でそれだけのスケジュールをこなし、さすがに疲れたから今日は長部のいるホームレスのテントではなく、どこかビジネスホテルにでも泊まるか──とターミナル駅近辺に向かった。そこでふと一軒のバーに向かう。疲れているのになんとなくまだ休む気になれず、一杯飲もうと思ったのだ。


 そのバーは以前樋口に教わった店だった。どこも変わったところのない、年齢層が偏っているでもなく、カップルや女性グループなどもよく来ている店だが、樋口曰く、特にカムアウトしていない"お仲間"が素知らぬ顔で相手を探すために集まるようになった知る人ぞ知る出会いスポットなのだという。
 ただ、今日は別にこのテンションで誰か相手を見つけて今夜──という目論みがあったわけではない。ただ知った店が近くにあったから立ち寄ろうと思っただけだ。

 平日のまだそう深くない時間のバーは空いていた。
 コの字型のカウンターにとまり、バーテンと二言三言会話して運ばれた酒を口にしたあたりで──

 視線を感じた。

 ちょうど向かい側あたりに座っている、仕事帰りのサラリーマンでもなくいわゆる業界人っぽくもない。かといって学生のような若さでもない。Tシャツにパーカーを羽織った、セットもしていないラフな髪の男が、立て肘に顎を乗せてじっと茜のことを睨んでいる。さり気なく見るでもなく、明らかに睨んでいる。


 目を合わせず盗み見るようにして男の顔を見て、茜は息を飲んだ。

 その男の顔は、子供の頃から何かあれば眺め、話しかけてきたあの写真の──


 "冶多郎君"に瓜二つだった。

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*Note*

 本編「カメラ」の話で、茜ちゃんが長さんにもらった水谷茜のカメラを預けてフィルムの現像を頼んだカメラマン…としてちょろっと出て来てそれきりの出番だった『樋口君』です。あらー、そういう関係だったんですね……。これ多分、樋口君がその気になってればくっついてたと思うんだけどね。樋口君にとっては茜ちゃんは"彼氏"のタイプじゃなかったみたいです。多分だけど樋口君はガチムチでオス味が強くてモラハラぎりぎりくらい押しの強い男が好きです。基本受けなんだけど、そういうガチムチ彼氏を時々ドSに攻めるのも好きだと思います(何の設定)だからセフレ関係の間に茜ちゃんも何回かはやられてると思う(だから何の設定)。

​ とか言ってる間に、ついに嵯院椎多さんが近づいてきましたよ。

 

​ ふと思ったんだけど、茜ちゃんはこんだけ自分の居場所が無い無いって漂ってるんだけど、谷重バーには引っかからなかったんですね。たまたまでも通りすがりでもあの店に行くことがあったら取り込まれてたかもしんないね。あそこは『居場所のない人が引き寄せられてくる』店だから。

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