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着 信

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「茜先生、携帯鳴ってますよ」
 コーヒーを持ってきてくれたメイドが声を掛けるまで、それに気付かなかった。
 いや、その声にさえ何度も呼ばれるまで気付かなかった。


『テレビ、見てるか』
 

 出るなり椎多の声。
「ええ」
 とだけ答える。他に出す言葉が見つからない。
 そのテレビに釘付けになっていて耳が留守になっていたのだ。
『先に言っておくが、まだ屋敷を出るなよ』
「……」
 釘を刺された。おそらく、椎多は先に屋敷の警備の者にも自分を敷地から出さぬよう指示しているのだろう。
『いいか、おまえは狙われているんだということを忘れるなよ』
「……わかってます」
 慌しく用件だけ言うと椎多の電話は切れた。

 テレビの向こうでは派手なフラッシュに照らされて父と長兄が並んでいた。
 立ち上がって長机に額をこすりつけるようにしている。
 所謂、謝罪会見である。
 それだけなら多少驚きはしてもさほど動揺はしない。最近は医療過誤の事件も多い為か何かあったとき患者も泣き寝入りはしないし内部告発もある。茅病院だけが例外ではない。
 ただ、会見が終了してその場を撤収というところまでカメラは追っていた。

 

 そこで、突然中央にいた老人が崩れ落ちた。
 

 血の繋がらない、そして茜の命を狙っている──父親。
 会見場は更に混乱の度合いを深めた。
 父──院長は、その場から運び出された。場所は病院だし当然医師は揃っている。すぐに処置をすればおそらく命に別状はないだろう。
 しかし、茜は確かに動揺していた。


 父はすでに七十を超えている筈だ。
 心臓か、脳か──おそらく、脳だろう。
 椎多の電話が無ければ──
 あそこへ向かってしまっていたかもしれない。
 父親とも思えない、医者としても尊敬できない──そんな男なのに。
 反射的に茜はそこへ向かおうとしていた。

 心配?

 そんなんじゃない。
 ただ条件反射のようにそこへ向かわねばならない感覚に支配されたのだ。

 心配で居ても立ってもいられない、そんな感情がついてこない。いっそその方が判りやすく動揺できるのに。

──あの父が、どんな顔で息絶えるのか。

 おそらく最期まで母を慈しみはしなかったあの男は、一体どんな顔で母に会うのだろう。

 

──見たい。

 茜はごくりと唾を飲み込んだ。血の気が引いていく。ツーツーと鳴る電話を閉じ、茜は深呼吸して椅子に座り直した。
 コーヒーを口に運び、気を鎮める。それから目を閉じ、ゆっくりと息をする。拳を作り、額を何度かとんとんと叩いた。


 再び目を開けるのと同時に携帯電話が再び音を立てた。
 手に持ったままだったそれを驚いて取り落としそうになる。
 茜はゆっくりと折りたたみ型のそれを開いた。発信者は登録されていない誰か。
 眉をしかめて着信ボタンを押し、耳に当てた。

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 居場所がなくうろうろしているのにも飽きて優は煙草でも吸おうと裏口から庭へ出た。塀の向こう側にざわざわと人の集まっている気配がする。ちらちらとカメラや大きな集音マイクが見えている。報道陣も集まっているのだろう。
「煙草も落ち着いて吸えやしない」
 小声でひとりごちると優は一旦咥えた煙草を箱に戻し、再び邸内に入った。仕方ないので階上へ上がる。


 父は倒れたまま意識が戻ることはなかった。
 

 病院内で倒れたのだから命までもっていかれるとは思わなかった。
「いい笑い者だ」
 どんな救急より迅速に対応できた筈の状況で、ある意味では最VIPである院長を救えなかった。──否。病院として致命的とも思えるこの失態ですら、もうひとつの事実の前に比べればまだましだ。
 父は日頃から高血圧で、薬を服用していた。記者会見の前に薬を飲んでいるところを優も目撃している。
 その降圧剤は優が処方したものだ。


 しかし、父が飲んだものは真逆の──昇圧剤だったということが判明したのである。
 

 優が書いた処方箋が間違っていたわけではない。
 おそらく、薬剤師が責任を問われる形になるだろう。ただ、今回の謝罪会見の原因も投薬ミスでありそこへさらに処方ミスなどが発覚すればどうなるか──

 兄の秀行は父を死に至らしめた「犯人」を探すことよりも、その事実を隠蔽する道を選んだ。警察には、持病の高血圧から引き起こされた脳卒中、つまり病死であると報告したのだ。


 優は釈然としない。
 院長が服用する薬ということで、処方箋は薬局の責任者であるベテランの薬剤師に直接渡している。彼も院長が高血圧であることは当然承知の上だ。出来の悪い薬学生じゃあるまいし、彼がそんな間違いをするわけがない。まして、今回出したのは前回と同じ処方である。薬剤師に責任を問うのは明らかに見当違いだ。


 階段を昇る音に振り返ると、兄がやはり一服しに来たようだった。青ざめた老け顔がさらに5歳ばかり老けて見える。
「山岡の処分は院葬が済んでからだ。まったく、親父もこんな時に面倒を全部おれに押し付けて自分だけ楽になりやがって」
 山岡というのは件の薬剤師である。秀行より年上だが院内の人間は全部部下だといわんばかりだ。
 マスコミの対応だの葬儀の準備だの、ある程度人に任せているとはいえ次期院長たる兄はてんてこまいなのだろう。優などはむしろやることがなくてつまらぬことを色々考えてしまう。

「案外──」
 優は吸い終わった煙草を捨て、もう一本に火を点ける。普段は一日に10本も吸わないが今日は手持ち無沙汰で本数が多い。


「誰かが薬をすりかえたんじゃないの。親父や兄貴が茜の命を狙ってたみたいにさ、あんたらが誰かに命を狙われててもおかしくないでしょ」
 

 秀行は一瞬形相を変えた。心の中ではその可能性を多分に認めていたのだろう。
「誰がそんな芸当を出来るというんだ。親父が持ち歩いている薬だぞ。だったら一番怪しいのはやっぱり山岡だ。それともおまえが山岡に指示したのか」
「落ち着けよ」
 うんざりと半分程しか吸っていない煙草を消すと優は首を回した。肩がこきこきと音を立てる。
「悪かったよ、これは事故だ。そんなことよりやることが山積みなんでしょ、院長」
 秀行は再び顔を顰めると何も言わずに階下へ降りていった。それを見下ろしながら優は嘲笑ともとれる笑いを浮かべる。


 兄が心中何を思っているのか、手に取るようにわかるのだ。
 父の薬を誰かがすりかえたのだとしたら。
 父が誰かに命を狙われていたのだとしたら。
 自分も狙われているのではないだろうか──
 その可能性に、兄は怯えている。


「小心者の癖に殺人なんか企てるからさ」
 優は誰にも聞こえないように呟いた。

「一喝されました」
 目を向けると痩せた老人が階段を昇ってきた。優はその男を知っている。
 老人とは言っても、背筋はぴんと伸びているし足元もきびきびと動いている。兄よりずっと高齢の筈だが見た目だけなら兄とさほど変わらないように見えた。
「高井さん──」
「お久し振りです、優先生。この度は突然のことでご愁傷さまでした」
 階段の途中で立ち止まり、高井は礼儀正しく頭を下げた。
「一喝されたって、兄に?」
 悔やみの言葉には応えない。故人を惜しんでいるようには見えないからだ。
「ええ。何しに来た、と」
「忙しくて気が立ってるんだよ。あなたもタイミングが悪かったね」

 

 祖父の──理事長の秘書を長年勤めてきた男だ。肩書きはすでに引退しているが実質は現在も理事長の懐刀として十分機能している。秀行が高井を敵と見なして排除しようとするのはわからなくもない。
「優先生は仰らないんですか、何しに来たと」
 高井は笑っている。
 優の頭に残っている高井の面影は20年程昔で固定されていた。それ以降は会っても情報は書き換えられずに現在に至る。それなのに、白髪と皺が多少増えたかな、程度の印象だ。正確な年齢は知らないが還暦は過ぎていてもおかしくない。ただし、そうとは見えない。
「言っても仕方ないことは言わないよ。こちらの様子を探りに来たんでしょうけど」
「仮にも理事長の娘婿が亡くなったのですから何もしないわけには参りませんよ。何かお手伝いをと思ったのですが帰れとお叱りをうけました」
「その爺さんは元気なのかな。この調子だと百まで生きるんじゃないの」
 高井は返事をせずただ笑った。


「親父はねぇ、誰かに殺されたんですよ。案外、あなたがたじゃないんですか」
 

 顔色を変えるでもなく、高井は肩をすくめるだけだった。
「推理小説の読みすぎじゃありませんか?優先生は読書がお好きだったことは存じておりますが、現実はそんなに劇的じゃありませんよ」


──よく言う。


 喰えぬ男だ。
 伊達に何十年も理事長の懐刀を勤めてきたわけではない。
「理事長は茜を院長にしたいんでしょ?親父が死んであとは兄貴と僕がいなくなれば──あいつはおじいちゃん子だったから、その状況で病院の為に引き受けてくれと言われればきっと断りきれない」
「優先生は茜さんの性格をよくご存じなんですね」


──ああ言えばこう言う。


 優は早々に白旗を揚げることにした。この男からは何の情報を──例え表情ひとつにせよ──得ることも出来ない。それどころかこちらの胆を探られるのが関の山だ。
「嘘ですよ。親父はもともと高血圧だった。あんな状況じゃ健康な人だって血圧上がりますからね、院長だからってあの席に出ることを許可した主治医の──僕の判断ミスです」
 高井はまた少し肩を竦めただけだった。
「さっきも言った通り兄貴は気が立ってる。悪いけど高井さんがいると余計に機嫌が悪くなるんでね、折角のお申し出だが今日はお引取り頂けます?」
「かしこまりました。何か手が必要な時は仰って下さい。告別式にはおそらく私が理事長の名代で参りますが」
 やはり丁寧に礼をすると高井は階段を下りていった。


 高井は目的を達したのだろうか。
 追い返されるのを承知の上でわざわざ手伝いに来るなら高井でなくても構わない筈だ。つまり、高井には他に目的があったのだろう。

 

 敵情視察──
 この混乱で、何かつけこむ隙を探しに来たのかもしれない。

 

 胸ポケットに突っ込んであった携帯電話が、着信を告げる振動を伝える。
 発信元はわからない。怪訝な顔をして優は着信ボタンを押した。

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 落ち着かない。
 秘書に少し休むように促され、少し眠ろうかと思ったが目が冴えて眠れそうにない──と思ったのだがおそらくそうしている間にわずかに眠りに落ちていたようだ。いつのまにか深夜になっていた。
 忙しいうちは苛々はするがまだ気が紛れる。
 静かになると、途端に頭の中に優の声が響いた。


──あんたらが誰かに命を狙われててもおかしくないでしょ。
 

 誰かが意図的に父の薬を摩り替えることが果たして可能なのか。
 秀行は心の中でその可能性を懸命に否定した。
 否定すればするほど、それは心の中に深く根を伸ばしてゆく。
 ならば次は──私か。
 突然現れた高井が、まるで死神に見えた。


──やつだ。


 首尾を確認に来たのか、それとも私を殺しに来たのか。
 冷静に考えれば、高井自身が院長の薬を摩り替えるなどまさしく絵空事だ。
 しかし、本人でなくともいい。高井の──ひいては理事長の指示で、誰かがそれを実行したに違いない。
 そう考えだすと他の可能性をまるで考えられなくなってきた。


──次は私か──


 誰だ。
 誰が高井のスパイだ。
 ろくに食事も摂っていないから胃が痛くなってきた。吐き気までする。
 いや、胃薬も安心できまい。これほど部外者が出入りしている状況で飲み食いなどもってのほかだ。
 秀行は額に脂汗を浮かべカウチに横になった。
 高井か。理事長か。それとも茜か──
 私の秘書たちも元を質せば高井の部下だった者やその更に部下だ。信用できない。


──いや。


 優はどうだ。
 親父が死んだ今、私がいなくなれば院長の座はあいつの手に転がり込む。
 そのままいけば院長になれたとしても私の後の筈だった。まだまだ先の話だ。
 権力には無関心なそぶりを見せていたが実はこうなることを目論んでいたのではないのか。
 高井と優が組んでいるという可能性はないか。
 考え始めると周囲の人間が全て敵に思えてきた。
 妻ですら誰かに買収されてはいないかと思える。息子はまだ小学生だ。頼りになどならない。


──誰もいない。


 秀行は愕然とした。
 こうなって、信用できる人間が自分にはいないことに漸く気付いたのだ。

 

──気が。
──狂いそうだ。


 殺しにくる。
 誰かが私を殺しにくる。
 誰だ。
 誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ─────

 頭を抱え髪を掻き毟る。もしかしたら自分はもう既に誰かの盛った毒にでも侵されているかもしれない。
 とにかく、自分の身は自分で守らなければ。
 そうだ、茜を殺すべく依頼した殺し屋がいる。あいつにとっては私が──父亡き今、私が顧客だ。私が殺されたらここまで時間をかけて周到に準備していた筈の仕事がすべておじゃんになる。だからあいつには私を守るメリットがある筈だ。
 あいつの連絡先は──ああ、こちらからはすぐには連絡がとれないのだった。しかし連絡を試みるのはすぐやっておくべきだ。少しでも早い方がいい。


 冷や汗で湿った手で携帯電話を取り出しメールの画面を出す。
 指が細かく震えてうまく操作できない。

 

 その時、突然その小さな機械は大きな音を発した。
 それこそ──心臓が止まるかと思う程驚いて秀行は一旦投げ出してしまったそれを凝視した。

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「お久し振りです、茜さん。高井です。もうお忘れになりましたか?」
 高井は顔の見えない相手に微笑んだ。顔の表情は思った以上に声に反映される。
 受話器の向こうの相手は少し戸惑った声で答えた。
『覚えてますよ。どうしてこの番号を?』
「理事長の指示でお掛けしましたので。申し訳ありません」

 祖父にべったりだった子供時代とは違う。とはいえ律儀といおうか茜は理事長に連絡先をきちんと知らせていた。
 

『今、テレビを見ていました。父が倒れたようですね』
 

 話が早い。
 茜は頭の回転が早い子供だった。聞き分けもいい。
 ただ、理事長の望む病院内のポストだけは頑として固辞している。
 そのせいで何度も生命の危険に晒されたのだから権力抗争に嫌気がさしたのだということは想像に難くない。子供の頃から他人と争うことをよしとしない性格だったから尚更だろう。


 勿体無い、と思う。
 もう少しだけ欲があれば、いい院長になれただろう。

 

 しかも、今なら嵯院グループとのパイプもある。理事長や院長がやってきたような政治的な世界が厭なら経営は嵯院に委託してもかまわないのだ。要するに茅病院の名が残ればいいのだから。
 それでも、おそらく茜は首を縦には振らないだろう。
 香坂洋のようにほんの少しでも野心があれば、それはひとりでに大きくなっていくものを。
「今、病院にいます。状況はどうも難しいようですね」
『難しいとは──倒れてすぐ処置すれば助かるでしょう?』
「私には専門的な事はわかりかねますが、大騒ぎですよ。丁度脳外科の中村先生──現在茅病院で一番腕のいい脳外科の先生ですが、この方が徹夜のオペ明けで帰宅されたところだったようです。随分難しい場所で出血しているようですね」
 中途半端に助かって半身不随になったりしなくて幸運だっただろう──と高井は思った。


 電話の向こうで茜は絶句している。
 自分の命を、おそらく現在進行形で狙っている父親の病状がそれでも気になると見える。お人よしにも程がある。

 

「それで、茜さん──ご相談ですが、この機会に是非理事長にお会い頂きたくお電話差し上げたのですが」
『……』
 茜はまだ絶句している。
 否、この状況になってまた理事長が自分に跡を継げだのいう話を持ちかけるだろうと予測できたのだろう。
「如何ですか」
『今、ここを離れることができないので改めて下さい。理事長にはこちらから連絡すると』
 何も拉致監禁して言う事を聞かせようというわけではないのに随分な警戒だ。
 嵯院からなにか吹き込まれているのかもしれない。
「茜さん。理事長は最近少し体調を崩されて気が弱くなっています。できれば早くお目にかかってさしあげることは出来ませんか」
『祖父が?──わかりました。出来るだけ急ぎます。深刻な病気というわけでは?』
「そうではありませんがなにぶんご高齢です。風邪一つでも深刻にならないとは限りませんので」
 祖父孝行を利用するという手はあまり頻繁には使いたくない。が、出来れば通夜だの告別式だのの前に多少のコンタクトは取っておきたい。


 案の定、茜は祖父の健康状態に少しは心を動かされたような手ごたえを感じた。
 それでも、茜はやはりうんとは言わないのだろうか。


 わかった──と。
 言わせてみたい。

 

 高井は静かに電話を切ると小さく笑いを漏らした。

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「そんなに心配か」
 後ろになでつけた髪を解し片手でネクタイを緩めながら溜息をつく。
 帰宅して自室に戻ると椎多は茜を呼びつけた。
「そういうわけじゃありませんが」


 茜はやはり何事もなかったかのような顔をしているが、そろそろ椎多も茜の表情を読み取ることに慣れてきたらしい。
 茜は無表情ではないが負の表情を貌に乗せることがあまりない。負の感情を持たないのかそれとも心の奥底に上手に隠しているのか、そのあたりが解り難いのだ。

 

「まあいい。おまえがおめでたい人間だってことぐらいもうわかってる」
 茜はただ苦笑した。
「それで倒れた親父殿はどうなった。くたばったのか」
 心配なのかという舌の根も乾かぬうちに何の思いやりもない言葉をぶつける。
「そのようですね。先程祖父の秘書から連絡がありました」

 

 祖父、つまり茅病院の理事長の側からか──と独り言のように小さく呟く。厭な感じだ。
「通夜だの葬式だのに行くと言うんじゃないだろうな」
「何を言ってるんですか。血は繋がってないとは言っても父ですよ。出ないわけにはいかないでしょ」
「あのなあ」


 状況をよく考えろ。
 おまえの命を狙っていた片割れの兄貴はまだ残っているぞ──


 と、言わなくてもそれはわかっているだろう。この馬鹿はそれでも行くと言うのだ。
 呆れたような、諦めたような溜息を大袈裟に落とすと椎多はほんの数秒沈黙した。
「通夜はとりあえずやめておけ。社葬、いや病院だから院葬というのか?があるだろう。それにしろ。俺も行く」
「椎多さんが?何故?」
 心底不思議そうに茜が椎多の顔を見上げる。


「『嵯院』会長の主治医の父親が亡くなったんだぞ。出ないわけにはいかないだろ」
 

 先程の茜の台詞を逆手にとってみた。
「心配しなくてもボディガードを山ほど連れて行く。おまえは俺の側から離れなければいい。ああ、それから葬式用の花は特別でかいのを用意させよう。そこでもしも何かがあったら茅病院は終わりだ。相手もそこまで馬鹿じゃない」
 茜は困った顔をして笑っている。
「言ったろ。腹芸は得意なんだ」
「わかりましたよ。それは俺の専門分野じゃない。任せます──それから」
 茜はほんの少し迷ったように言葉を切った。


「その前に祖父に会いに行こうと思うのですが、よろしいですか?体調を崩しているようなので」
 

 わざと丁寧な言葉を使っている。
 何故このタイミングで理事長に会いに行かねばならないのか。向こうはこのチャンスにまた茜を次の院長へと推す筈なのだ。その説得の為か、否、実際にそういう会話がなされなくても茜が理事長を訪ねたというだけで周囲はその相談だと判断する。体調を崩しているなど、茜を呼びつける為の口実に決まっているのだ。
「ものごとを疑わないにも程があるぞ、茜」
「椎多さんは疑いすぎです」
 睨みつけて椅子の背に掛けてあった外したネクタイを茜に向かって投げつける。
「ダメだ。じいさんの見舞いならこのゴタゴタが少し落ち着いてからにしろ。危篤だとかそういう話じゃあるまい」
 茜はほんの少し不満げな顔をした。しかし椎多はそれだけは譲らなかった。


 もしも院長の椅子だの殺す殺さないだのという背景が無いのなら父親の通夜だ葬式だはもちろん祖父の見舞いくらいいくらでも行けばいい。今はそういう一般的な物差しは通用しない事態であることは茜本人も自覚すべきだ。


「もう一回言っておくぞ。俺はおまえに死なれても困るし院長の椅子なんかに座らされてここの仕事を離れられても困るんだ。自分の仕事の責任を全うする気があるならとにかく今は俺の言う事を黙って聞いておけ。いいな」
「……説得力がありますね。わかりました」
 諦めたように溜息をつき、茜はまた笑った。相変わらず苦笑のような顔だった。

 翌日のワイドショーでは、茅病院の謝罪会見と院長が倒れた場面が繰り返し繰り返し何度も流された。
「他にもニュースはあるだろうに」
 それをじっと見ている自分も自分だ。こういう視聴者のおかげで視聴率が上がり、こういう番組は食いつないでいる。ハイエナのようなものだ。
 椎多は皮肉に微笑むと冷めたコーヒーを取り替えるように秘書に命じた。
 見ていると、茅院長の自宅にまで報道陣がつめかけている。倒れた院長が結局帰らぬ人となったという報せは臨時ニュースのテロップにまでなっていた。当然、カメラは敷地内にまでは入っていないが、塀の外側はある意味パニックだ。
 とりあえず通夜は今夜行われるという。


──ああ、そういえば。


 椎多はデスクの引き出しを開け、名刺ファイルを一冊選んで取り出した。
 表紙から5ページ目に目的の物を見つける。
 携帯電話の番号も記載されていた。
 電話機のスピーカーから呼び出し音が数回漏れてくる。


『もしもし?』
 

 という声が聞こえると同時に受話器を持ち上げ耳に当てた。
「茅優先生ですか?突然申し訳ありません。先日お目にかかった嵯院と申しますが──」
 相手はすぐに理解したようだ。それはそうだろう。
「ご多忙中かとは思いましたが一言お悔やみを──この度はご愁傷様でした。優さんも大変でしょう」
『ああ、それはご丁寧に有難うございます。こんな形で世間をお騒がせして申し訳ないと思っていますよ』
 社交辞令の応酬が何往復か続く。

「茜先生も随分ショックをうけていますよ。ただ、申し訳ありませんがこちらの仕事で本日のお通夜と密葬の方はご辞退申し上げたいと。私の指示ですので私が替わって謝罪いたします。院葬はいつのご予定で──そうですか。その時には私も同行させて頂きます。後先になりますが茜先生のお父上にご挨拶も無しというのはあまりに失礼ですから」

 少し笑いそうになりながら椎多はすらすらと言った。声だけは神妙に聞こえるよう気をつける。
 あちらも、もしかしたらこの会話の空々しさに笑えているかもしれない。
「ええ、それでは──喪主はご長男の秀行様ですね?よろしければ直接ご挨拶させて頂きたいのですが……そうですか。やはりご多忙ですね。それでは申し訳ありませんが優さんからお兄様に宜しくお伝え下さい」


 通常はよほどのVIPでもなければ椎多自らこうして弔みの電話をしたりすることはない。弔電にせよ献花にせよそういう仕事は秘書に任せている。ただ、今回は「通常」ではないのだ。


 受話器を置くと椎多は頬杖をついて指を鼻のあたりで遊ばせた。
 賢太や睦月らの情報網を駆使して、秀行らが接触した暗殺者を特定しようとしてはいるがいまだ決め手がないのが現状だ。
 もしかしたらもぐりかもしれない。最近は素人がインターネットなどを介して殺しを請け負う時代だ。そこまで広げるとなると余程の情報が無い限り特定は難しい。
 鴉など同業者なら何か情報を持っているかもしれないがあの連中が余程の旨みか思惑がなければ情報を漏らすことはない。


──ならば誘い出すか諦めさせるしか当面の方法はない。


 どう出る。
 椎多はどこかを見据えるように視線を投げた。

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『ヘヴン』はコンビニエンスストアのビニール袋をぶらぶらと揺らしながら歩いていた。
 もう深夜をまわっている。
 煙草を切らしたので仕方なくコンビニ向かい、ついでに小腹がすいたので弁当とペットボトルの茶、それからスナック菓子を2袋買った。


──面倒くさいな。


 ここ数ヶ月、『ヘヴン』は同じ事で頭を悩ませていた。
 

──このまましらばっくれてしまおうか。


 頭の中で色々と計画を立てたりシミュレーションしてみたが、相手が悪かった。
 困難な課題を克服するのは非常に達成感があるのだが、失敗しては元も子もない。
 コンピュータ上では完璧な作戦でもいざ実際の状況をパズルのピースにして嵌め込んでいくとどうしてもどこかに歪みが出来てしまう。その歪みを実地の経験や技術でカバーするのがプロの仕事なのだろうが、いかんせん『ヘヴン』はそこまでの経験値に達していなかった。
 そうしているうちに、段々と新しい手立てを考えるのが億劫になってきた。


 考えながら歩いていると自分の部屋の前に到着した。
 溜息をついてポケットから鍵を取り出す。部屋の電気はつけたまま出てきている。
 雑然とした部屋に上がりこみビニール袋を無造作に床に置くと『ヘヴン』はそのままパソコンの前に座った。
 

──?
 

 先程していた作業の続きをしようとして手が止まる。
 

 誰かが──
 これを触ったか?


「『ヘヴン』──天国か。陳腐なハンドルネームだな」


 感電したかと思った。
 背後に、誰かがいる。振り向くことが出来ない。
「良くないね、素人があんまりこういうことに手をだしちゃ」
「──」
 声が出ない。
「今、やろうとしている仕事は手をひいた方が身のためだよ。ゲームおたくの警備員くずれか何だか知らないが素人がどうこうできる相手じゃない」
 その「誰か」の声はどこか嘲笑していた。
 からくり人形のように小刻みに震えながら振り返ろうとした瞬間──
 鈍い音と同時に自分の脇に投げ出しておいたビニール袋が派手な音を立てた。床に茶の染みが広がってゆく。


「おとなしく手を引かないと判ったら今度は君の頭がその弁当のようになる」
 

「──はい」
 蚊の鳴くような声で返事をする。おそるおそる視線を斜め下に下げると、弁当は無残に飛び散っていた。
「そうなっても『天国』には行けはしないがな」
 一瞬気を失っていたのかもしれない。
 キぃという金属の軋む音がした気がしてもう一度おそるおそる振り返ると、もう誰もいなかった。
『ヘヴン』はへたりこんだまま体中を恐怖で痙攣させている。失禁していることにも気付かなかった。

「さあて、出てくれるかな。大忙しの喪主殿は」
 イヤホンの向こうの首尾を確認すると楽しそうにダイヤルボタンを押す。
 呼び出し音が3回、4回、5回……深夜だからもう睡んでいるのかもしれない。
 8回、9回。
 

『……もしもし?』
 

 怯えたような声が聞こえた。
 深夜の電話に寝惚けているでも立腹しているようでもない。ただその声は怯えていた。
 

「茅、秀行さん」
 

 電話の向こうの人物がもの凄い勢いで息を吸い込んだのがわかる。悲鳴のようにひぃっと音が聞こえた。
 あまりの滑稽さに笑いを堪えるのが大変だ。
「茅秀行さんでしょう?あなたが殺人を依頼した『ヘヴン』という人物はこの仕事を下りたいそうですよ。報酬をけちって素人なんかに頼むからこういうことになる。詐欺のようなものです。支払済みの半金は勉強代だと思っておきなさい。本人からも連絡があるか──もしかしたら二度と連絡は取れないかと思います。それでは」
 一方的にそれだけ告げて電話を切る。
 切ったところで車を停めると、そこに大きな人影が近づき乗り込んできた。
「お疲れ」
 そのまま走り出す。
「なんだか機嫌悪そうだね、雄日」
 鴉はまっすぐ前をみたままハンドルを握っている。
「消さなくていいの?」
 少しだけ顔を傾け、鴉は握ったハンドルを指でとんとんと叩いた。
「あいつの命の分の報酬まではもらってない。雄日、あいつを殺したいと思ってたでしょ。声でわかったよ」

 『ヘヴン』を脅している時の声に殺意が含まれていたのだと鴉は言う。
「まあ、だからこそあいつはあそこまでびびったし、当分外には出られないだろうよ。そのうち勝手に自滅する。雄日」
 

 信号の赤が見える。緩やかに停車する。
 鴉は雄日の顔を覗き込み小さく笑った。
 

「判らなくはないよ、ああいうタイプのヤツはオレも大嫌い。でもあんなくだらない蛆虫みたいなやつでも不用意に殺したら足がつく心配をしなきゃならない。標的がどんな親友でも恋人でもどんな憎い相手でも頭にくる相手でも一度請けた仕事に私情を挟んだら失敗する確率が増える」
 言い終わるとちょうど信号が青に変わる。
 雄日は一瞬──困惑を顔に浮かべたが、おとなしく頷いた。


「生きてても死んでてもどうでもいいヤツなんかのためにそんなリスクを負うことはないでしょ」
 

 くすくすと。
 鴉は面白そうに笑い続けた。

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 院葬としての告別式は、茅家の菩提寺である寺院で行われる。


──ここで葬られても親父は嬉しくないかもしれないけどな。


 優はやはりどこか他人事のように、しかし遺族としてやらねばならない挨拶などに奔走していた。


 流石にこの街では一番の大病院だし、父は医師会の何某とかいう役職にも就いていた。有名人や政治家などを担当したこともある。つまり告別式に来る人間は山ほどいる。しかも、蔑ろに出来ないクラスの人物も決して少なくない。

 喪主である秀行は体調が悪いといってあの通夜の夜以来殆ど閉じこもってしまった。部屋に運ばせた食事にも殆ど口をつけていない。
 

「げっそり痩せた姿を見せて世間様の同情でも買おうっていうの?世の中の人はそんなに優しくないよ。それより、喪主なら喪主らしくちゃんと出てきてくれないかなあ。僕はこういう面倒な仕事は向いてないんだ」
 今朝、優はいまだ出てこようとしない兄にそう意見した。
 もともと痩せ型でしかも老け顔の兄は尚一層痩せて骸骨のようになっていた。その中で目だけがぎょろりと優を睨みつける。


──こりゃダメだ。


「とにかく点滴でもしてもらって出てきてよ。喪主が顔も出さないんじゃ格好がつかない。倒れるんならそれからにしてくれよな」
「……てる」
「何?」
「…警備は充分だろうな。VIPが大勢来るんだ。何か間違いがあってからじゃ遅いぞ」
 力のない声。
「つべこべ言うなら兄貴がさっさと出てきて指揮すればいいだろ!あんたがこんなとこで暢気に寝てるからこっちは大変だったんだ。とにかくすぐに支度して出て来いよ!」
 普段、優はあまり怒りを露にする方ではない。しかし優もさすがに疲れが溜まっていたのだろう。思わず怒鳴ってしまった。
 すると──
 秀行は、酷く怯えた顔をして小さくわかった、とどもりながら言うと部屋に引っ込んだのだった。

──ありゃもう駄目だな。ちょっとクスリが効き過ぎたか。


 ちょっと冗談と皮肉のつもりで言った事が相当堪えているとみえる。
 やっとのことで喪主の席についた兄はしかし、やはりどこかおどおどとしていた。優の知っている限りの兄はどちらかといえば自信家で横暴な人間だったが今は見る影もない。
 失望と嘲りと怒りとそして希望のないまぜになった笑みが浮かんできた。


──私の方がまだましなんじゃないか。


 次の院長になるのには。
 少なくとも、今回の葬儀に関わった院内の人間ならきっとそう考えてくれるだろう。少なくとも人受けという点では優は秀行より勝っている自信があった。


──怒るなよ、父さん。あんたは見る目がなかったのさ。


 つぎつぎ訪れる弔問客に丁寧に礼をしながら優は今にも大声で笑い出したいのを堪えていた。

 少し場の雰囲気が変わったと思った。
 読経の流れる境内をうろうろ談笑している地位のある人間たちが一斉に──というのは言いすぎだろうがそれに近い勢いで門の方を向いたのだ。
 誰か大物が来たのだろうか。そう思って姿勢を正してよく見ると、見覚えのある人間が3人、並んで歩いている姿を見つけた。


──茜。


 茜の右隣には、嵯院がいる。そうだ、院葬の時には来ると電話で言っていた。そして茜の左側には──
 

──高井か。


 理事長の懐刀、高井が茜と一緒に歩いてくる。
 嫌なメンバーだ。
 彼らは優に気付くと小さく会釈して受け付けを済ませ、こちらへと足を向けた。
「優さん」
 最初に声をかけてきたのは高井だった。
「そこで偶然お会いしましてね」
 丁寧に挨拶をした後嵯院は控えめな微笑を浮かべて言った。茜は表情が硬い。

 

──偶然?わかるもんか。


 そんな出来すぎた偶然など信じられない。高井は──理事長は茜の説得に成功したのだろうか?
「ともかく父に会ってやって下さい。茜、親父には色々言いたいこともあるだろうがもう死んだ人間だ。許してやってくれ」
 茜は何も言わずただ頷いた。
 この表情はひねくれた私にも作っているようには見えない──優は瞬間的に視線を外した。


──おまえの命を狙っていた親父だぞ。
──なのに死んだら哀しいのか。
──血も繋がっていなければおまえに対して父親らしいことなど何一つしてこなかった男なのに。


 また、憎しみがこみ上げてきた。
 ただ、この場で言葉や表情や行動に出さない程度には優は大人だった。
「兄は中におります。少し疲れていますので失礼があったら申し訳ありません」

 

「秀行さん──」
 

 本堂を向いた高井が呟いた。
 秀行がそこから降りてきているのが見える。
 一直線にこちらへ向かってくる。
 裸足だ。
 目の端で嵯院が何かを合図しているのが見えた。
 それに呼応して何人かの人間が一斉に動いている。
 3秒後には周囲を囲まれていた。
 優は何が起こったのか、どこを見ていいものか判らなくなってきょろきょろするしかない。
 こちらへ向かってくる秀行が何か叫んだ。
 女の悲鳴が聞こえる。
 その金切り声に刺激されたように秀行は走り出した。

 手には──
 と思った瞬間、視界は秀行が2人の男に取り押さえられている場面に変わった。
 秀行は言葉と判断することもできない叫び声を上げている。手に持っていたものは叩き落され──


 それは、包丁だった。


 男達が取り押さえた秀行の両脇を固め、4人の前へやってきた。
「兄さん──何で──」
 秀行は誰かを殺そうとしたのか?もがきながら秀行は喚いた。
「うるさい!わかっているぞ!おまえたちがぐるになって親父を殺したんだ!今度は俺を殺しに来たんだろう!優、おまえも仲間だったんだな!殺される前におまえら皆殺してやる!」
「──随分お疲れのようですね、秀行さん」
 高井は動じることもなくそう言うと嵯院の顔をちらりと見た。
「出来れば穏便に済ませていただけませんか。この中にマスコミは入っていない。ここにいる皆さんさえ黙って下されば茅病院の名誉は守られます」
 高井の声に今まで喚きちらしていた秀行は急に懇願するような顔になり椎多や自分の両脇を固める男たちに目をやった。
「いや、頼む、警察に引き渡してくれ。警察の中だったら手をだせんだろ。頼むから警察を呼んでくれ。助けてくれ。院長なんかになれなくていい。もう茜を殺そうなんて考えないから助けてくれ。頼む」
 秀行は狂ったようにそう繰り返した。

 

「茜先生の命を狙っていたことを認めるんですか?」

 

 嵯院が──笑った。
 ぞっとするような笑みだった。


「椎多さん、やめて下さい」
「み、認める。悪かった。もうしないから助けてくれ」
 茜の制止の声を掻き消すように秀行の懇願は続く。怯えた秀行はつい数日前までの威厳ある外科部長とは別人だった。
 嵯院は高井、優の順番で視線を投げた。
「わかりました。とにかく秀行さんはお疲れのようですからどうでしょう、病院で少し療養して頂いては」
「お心遣い、感謝します」
 優は背筋にぞわりと嫌な電流でも流れているように身を震わせた。

 

──最初から。
 

 追い詰められた兄がこういう行動に出るようにこいつらは仕組んだんじゃないのか?
 それは現実離れした考えだった。
 シナリオは何通りもあったかもしれない。しかし、優が瞬間的に感じたようにこの三人が揃ってこの場に現れたことにはあの怯えた秀行を何某かの行動に駆り立てるに充分な意味がある。


 一役買ってしまったか。

 茜を見た。
 平然とした嵯院と高井に囲まれて茜一人が青い顔をしている。

 

 嵯院が連れてきたらしい男たちが秀行を裏口に停めた車で連れ去った。念のため秘書を同行させる。
 病院に電話をかけ、部屋──外から施錠できる特別室──を用意させた。
 おそらく。
 この騒ぎに居合わせた弔問客の誰かは黙ってはいられない筈だ。しかもこの寺の周りには報道陣が取り囲んでいる。
 実際には怪我人も出ていないから警察沙汰にはせずに済むかもしれないが、これが外に洩れないわけがない。


 そうしたら──


 自分も、椅子取りゲームから排除されてしまうのかもしれない。

 何事もなかったように本堂に向かった三人の男の背中を、優は呆然と見送った。

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*Note*

電話で繋がる各場面がちょっと気に入ってます。椎多は自分に直接関わってなければちゃんと出来る子です。これ書いてるあたりでだんだん優兄さんが気に入ってきました(白状)。

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